2021.09.17 「クジラからのメッセージ」受け止め「お堅い」製鉄業界が湘南で目指す変化とは

試作された飲料容器(提供=JFEスチール)

JFEのプロジェクトのサイトからJFEのプロジェクトのサイトから

 「お堅い」と思われがちな製鉄業界。その代表的なJFEスチールが、エンドユーザーと意見を交わし、鉄のカップを作る異色の事業に取り組んでいる。舞台は、屈指の人気スポット・神奈川県の湘南エリア。環境に優しい飲料用容器を開発し、地域の課題解決にも役立てる狙いだ。そのきっかけの一つは「クジラ」だった。柔らかい発想を取り入れ、「鉄」ならぬ「一石」を投じることができるか。

 鎌倉市をはじめ湘南エリアは、環境への意識が高い住民も多く、海に面していることから海洋プラスチックへの取り組みも進んでいる。一方で、観光客など人の入り込みは多く、人気の飲食店も軒を並べ、テイクアウトのプラスチック容器も課題となっている。

 そんな中で、素材を生かした地域課題解決を検討していたJFEスチールが、コンサルティングなどを手掛ける会社と意見交換をする中で、環境関連の取り組みの候補地として湘南エリアが挙がった。

 1年ほど前から、地元の住民や飲食店経営者、学生らとワークショップを開くなど、意見を交換。その結果、高いリサイクル性を持つ鉄の強みを生かした飲料容器の試作につながった。

 試作したカップは、容量500ミリリットルで80グラム。ほぼ同サイズのアルミ缶に比べ、適度な持ち重りがする。使うのは通常の缶用鋼板。デザインなどは地元側や専門家も加えて検討した。

 熱伝導が良く、コールドドリンクに向いている。鉄の素材感を出し、無骨なようでいて、どこかクールな味わい。表にはロゴを入れ、「93」の数字をあしらった。スチール缶のリサイクル率が約93%とされることにちなむ。

 これを、テイクアウト容器を使うレストランなどに活用してもらうことを想定。今後、イベントでテストマーケティングを行い、反応を探っていく。3~5年後に新商品開発を目指すという。

 同社はもともと、本業といえる事業でも、自動車の軽量化につながる特別な鋼板や、モーターで省エネができる鋼板などを手掛けてきた。ただ、「エコプロダクト」として、消費者に直接向き合うのは、極めて珍しい。

 湘南が舞台になった一つの背景には、3年前の出来事がある。鎌倉市の由比ケ浜で、シロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられ、胃の中からプラスチックごみが発見された。県はこれを「クジラからのメッセージ」として受け止め、海洋プラスチックへの対策も強化してきた。こうした経緯を知っている専門家のアイデアもあり、取り組みが進められた。

 「製品作りを通じて地域の課題解決に貢献するのが目標。順調にいけば、湘南を起点に全国に広げていければ」という。正式にお披露目されれば、ちょっとおしゃれな地域限定容器を目当てに訪れる人も増えそうだ。

 取り組みに参加している会社は「川上に位置する素材関連の企業が、消費者を意識して企業活動をする動きは、今後も広がる」とみる。

 この取り組みのサイトは下記。
https://www.jfe-steel.co.jp/products/can/pr/better_recycle_shonan.html

(詳細は20日付、電波新聞コンシューマー・ホーム面、電波新聞デジタルに掲載します)