2021.09.18 「オンラインもリアルのフェス以上に」 プリキュアのあの歌手も一肌アルプスアルパインがツール開発中
開発中のデバイス(提供=アルプスアルパイン)
オンラインのライブイベントでも感動を共有しやすいデバイスを、アルプスアルパインが開発中だ。強みとする技術を使い、例えば、演者の呼びかけに参加者が応えて動くと、ライブ画面の演出が変化したり、デバイスから出る振動や光を体感できたりする仕組みを目指す。ライブは、同じ空間にいることで得られる一体感などが醍醐味(だいごみ)だが、オンラインでは味わいにくい。アーティストらの側も、観客の声援や反応が届かず、手応えを持ちにくい。フェスの「密」などが問題になっているが、観る側、演じる側それぞれの問題を解消しつつ、新たな楽しみ方の提案につながるか…。
同社の開発段階の品は、陸上競技のバトンほどの大きさ。懐中電灯よりは軽い感じ。この円柱型のデバイスに、加速度を検知するセンサーや、スイッチの技術、同社の振動フィードバックデバイスなどを載せている。
振動フィードバックは、ゲーム機のコントローラーでも活躍。場面による振動の違いなどを生み出す役目を果たしている技術だ。加速度センサーも、スマホをはじめ身の回りに多用されている。
センシングなど電子部品や音響、カーナビなどに強い同社は、車の中などを快適な空間にする技術やノウハウを持つ。こうした力を集め、今度はスポーツやエンタメに展開させる形だ。
このデバイスを使って、例えば歌手からの呼び掛けで、スイッチを押したり振ったりすれば、その動きの情報がサーバーに蓄えられる。それに連動して、PC向けのアプリで配信されるライブ画面の演出が変化。デバイスから出る振動や光にも変化が起きて体感できる、という仕組み。拍手を送ったりペンライトを振ったりといった客席の盛り上がりが、目に見え、振動などで伝わるそうだ。また、演者側も独自のアプリでファンの盛り上がりを実感でき、より良いパフォーマンスにつながるという狙いだ。
コロナ禍でさまざまなライブは、無観客やオンライン開催が余儀なくされている。たしかに、オンラインでは、光や音響など会場設備を使った演出の臨場感や、同じ空間にいる一体感を味わいにくい面がある。
しかし、こうしたシステムが使われれば、新しい体験もできるかもしれない。また今後、通信が一層進化すれば、多くの場所での視聴や、AR・VRデバイスも普及しそう。そうなれば、オンラインは単にリアルの代わり、というわけではなく、新たな付加価値のついたものとして、楽しまれる可能性がある。
同社は開発の一環として、9月下旬に東京理科大学の大学祭(理大祭)で、共同で実証実験を実施。プリキュアの歌などでも知られる五條真由美さんが、別のライブ会場で無観客ライブをし、学生がオンラインで参加。演出パターンを変えながら歌を披露。この実験の結果をもとに、完成度を高め商品化を加速させる。
記者の取材先や知己にも、コロナ下でリモートの配信を手掛ける演劇・芸能関係者らは多い。劇場などに足を運んでも、大向こうのような掛け声が禁止され、整然と「鑑賞」しないといけないという空気感も強い。「それならいっそ、オンラインで身軽に参加し、ひいては、演者や制作関係者を支援したい」という人も少なくないだろう。
イベント運営やグッズ制作に関わる企業への販売を想定する同社。今後、生体センサーで利用者の状態を把握したり、さまざまなデータを活用した新たなビジネスも計画したりする。エンタメ、スポーツ業界を救う新たな一手になるか、注目される。
(20日付電波新聞 電子デバイス・材料面、電波新聞デジタルで詳報します)