2021.09.24 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<58>5Gによるダイナミック・ケイパビリティー ②

 生物や人、モノが増殖する場合、その個体数はある時点から加速度的に増加し、収容能力に近づくと増加率が減少して横ばいとなる。この「S字」を左回りに寝かせて左右に引き延ばしたような形の曲線をロジスティック曲線と呼ぶことは、前回新型コロナウイルス感染者数の推移を例に述べた。

 このロジスティック曲線はベルギーの数学者フェルフルストが名付けたもので、需要予測でもよく使う。なぜロジスティックという単語を使ったかは明らかにされていないが、ロジスティックの語源は部隊の後方で兵員や物資の補給活動を意味する「兵站(へいたん)」で、軍学校に勤めていたフェルフルストになじみがあったのではという推論など、由来は諸説ある。

4段階のサイクル

 さて、このロジスティック曲線は製造業の生産戦略にも使われる。製品ライフサイクルは一般的に、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に進む。新製品の導入期は市場に認知されるまで売り上げが伸び悩む。売れ始めると成長期に移り、コンベヤーのライン生産方式による「大量生産システム」が確立され、製品の生産数を加速度的に増加させる。低コストで大量生産するために、生産拠点を海外に移転し対応することも多い。

 そして市場の飽和による成熟期に入ると、市場競争が激しくなり、より製品の差別化が必要になってくる。個々のニーズに合った製品を展開していくために「多品種少量生産」や、さらに「変種変量生産システム」へと変化させなければ、グローバル競争に勝てなくなる。

 「変種変量生産(アジャイル・マニュファクチャリング)」とは、必要なときに必要なものだけをタイムリーかつ短納期に生産することだ。多品種の製品を小ロットかつ短納期で作る能力に加え、日々変化する顧客のニーズに速やかに対応する柔軟性が求められる。したがって変種変量生産はまさにダイナミック・ケイパビリティーにおける、機会を逃さず捕捉する「シージング能力」そのものになるといえるだろう。

大量生産システム(ライン生産方式)と変種変量生産システム(セル生産方式)

「変種変量生産」

 ところで、コロナ禍になってから変種変量生産をよく目にするようになったのは気のせいだろうかー。

 コロナ前に時を戻して見てみよう。1995年ごろから、技術革新の加速とオープン化によって製品ライフサイクルの短縮化と多品種化が進んだ。特に国内製造業者の多くは変種変量生産を実現する「セル生産方式」に取り組んでいた。

 人とモノの動きを最短化した少人数の作業者チームによって多種類の部品を組み立て、製品の検査まで全て行う方式だ。しかし、深刻な人手不足を背景に非正規雇用が急速に進む製造業では、セル生産方式に必要な「多能工」の育成がうまくいかないという課題にも直面していた。

 そうこうするうちにコロナ禍となり、受注の激減やサプライチェーンの寸断といった、急激な変化に見舞われた。そして不確実性の高まる環境で変種変量生産の必要性がますます増してきている流れになっているといえるだろう。

 特に密を回避する要請に応えられるのが、究極のセル生産方式である、一人で製品の全てを作る「一人屋台生産方式」でもある。ここには超高速無線技術「5G」との組み合わせで大きな効果が得られる。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉