2021.09.29 【ASEAN特集】電子部品各社、ASEAN工場へ投資継続現地機能の拡張を推進

ニチコンマレーシアの基板自立形アルミ電解コンデンサー自動機ライン

オータックスタイ工場の生産ラインオータックスタイ工場の生産ライン

 日本の電子部品業界は、ASEANでの事業活動を活発化させている。業界のグローバル化/ボーダーレス化が進む中で、電子部品産業にとってASEANは製造・販売・技術開発・物流・情報収集などあらゆる面で重要度が増している。近年は中間所得層の増大で消費市場としての魅力も増し、さらに、昨今のグローバルでの分散生産化志向の強まりもASEANの価値を高めている。現在のASEAN市場は、新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大で深刻な状況が続いているが、中長期の経済発展への期待は高い。電子部品各社は、今後もASEAN工場への投資継続と現地機能拡張を進めることで、さらなるビジネス拡大を目指す。

 日本の電子部品メーカー/商社は、グローバル事業拡大のための重要エリアにASEANを位置付け、同エリアでの事業体制を強化・拡充している。

 日系電子部品メーカーのASEANでの工場進出エリアは、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど多岐にわたる。営業拠点もシンガポールやバンコクなどを中核に、ASEAN域内各国に展開している。国内外の完成品企業やTier1メーカーなどのASEAN開発体制強化の動きに対応し、部品各社のASEANでの技術サポート体制やR&D機能構築の動きも進んでいる。

 近年のASEANエレクトロニクス市場は、中国の人件費高騰や若年労働者不足への対応、米政府による中国企業に対する規制強化などのさまざまなチャイナリスクを踏まえ、リスク回避の受け皿としての側面も含めて重要性が高まっている。

 自動車業界では、生産活動の地産地消ニーズが強まり、タイを中心としたASEAN生産体制拡充に力が注がれている。半導体業界でも、旺盛な需要を背景にマレーシアをはじめとしたASEAN投資が活発。白物家電や事務機器も、ASEANは日系メーカーのグローバル生産供給基地として重要度が増している。

 米中摩擦関連では、米政府による対中高関税対策や中国企業との取引制限などの措置を回避するための第三国としての重要性が高まり、米系企業や日系企業、さらには中国系企業も含めたASEAN生産シフトの動きが活発化。こうした動きにより、2018年から19年にかけてベトナムやタイなどを中心に、電子部品企業のASEANへの追加投資が活発だった。

 直近のASEAN市場は20年3月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を強く受けている。コロナの影響でASEANでは、20年春から夏にかけて企業活動の停滞や消費低迷が続き、20年春から夏にかけて、域内での自動車生産および販売が大きく落ち込んだ。

 さらに、21年夏場以降は、新型コロナデルタ株の感染拡大が深刻化。これにより、ベトナム南部地域等では市民に厳しい外出規制が課せられるなど、予断を許さない状況が続いている。

 そうした中でもASEAN進出の日系電子部品メーカーの生産は、20年春から夏を底に、その後は堅調な回復が継続し、21年の年明け以降は前年同期の生産実績を大幅に上回るペースとなっている工場が多い。

 各社は、地域によって工場の操業制限などを受けながらも、感染防止対策への十分な配慮と生産性向上に努めることで、顧客への供給責任を果たすべく高水準の生産活動を継続している。工場によっては政府の外出制限が厳格化されている中で、工場への従業員の泊まり込みなどの対策も講じられている。

 ASEAN市場は、当面はコロナ禍で不安定な状況が続く見通しだが、中長期の成長に向けた期待は高い。

 コロナ禍が落ち着いた後のASEAN経済は、再び長期成長軌道への回帰が見込まれる。ASEAN加盟10カ国の総人口は6億人を大きく超え、EUや北米を上回るとともに、高い人口成長率が続いている。経済成長に伴い、ASEAN各国での中間層の比率も上昇が続いており、世界の消費市場を支えるエリアとしても魅力が高まっている。

電子部品生産

 日系電子部品メーカーのASEAN工場の進出場所は多岐にわたる。中でも早い時期から工場進出が進んだマレーシアやタイの生産拠点では、長年の事業活動を通じたノウハウの蓄積や優秀な人材の育成などにより、付加価値の高い生産活動が展開されている。

 これらのASEAN中核国の工場では、自動化や省力化を通じた生産性の向上や生産品目の高付加価値品シフト、現地調達率向上、部品加工からの一貫生産などが推し進められている。特に、自動車産業の集積化が進むタイでは、車載用に特化した工場体制構築などが進められている。生産規模の大きいタイの白物家電やエアコン市場に照準を合わせた電子部品の生産増強にも力が注がれる。

 一方、ベトナムやフィリピンは、豊富な労働力やローコストオペレーションを強みに、従来の中国生産を代替する電子部品の輸出型工場として、生産能力増強への投資が活発。

 最近は、タイやマレーシアの工場をマザー工場とした、メコン地域新興国(ラオス、カンボジアなど)へのサテライト工場展開の動きも進展。ASEAN工場をマザー工場としたインド生産展開なども進められている。

営業体制

 日系電子部品メーカーや電子部品商社のASEAN地区営業拠点は、シンガポールやタイを中核にさまざまなエリアに広がっている。特に近年は自動車産業が集積するタイでの営業体制拡充が進んでいるほか、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア等での新たな営業拠点開設や既存営業拠点の人員増強、機能拡張などが進められている。

 外資系完成品メーカーやEMSのASEANでの部品調達機能は、かつてのシンガポール一極集中から、近年は購買機能がさまざまな国に広がり、マレーシアやタイのほか、ベトナムやフィリピンなどでの現地調達ニーズも高まっている。部品各社は顧客ニーズに的確に対応するためのASEANでの営業体制や物流体制拡充を推進し、最適なソリューション提供を目指す。

技術体制

 日系部品メーカーや部品商社のASEAN技術体制拡充も進展している。現地工場での金型や治工具開発、自動機設計などに加え、製品設計機能の拡充も進み、現地で設計した電子部品を一気通貫で立ち上げ、ASEANやグローバル市場に供給する企業もある。

 現地の設計リソースを活用し、部品単体に加えて基板アセンブリーなどのODMを展開することで、新規ビジネス拡大が志向されている。シンガポールなどに本格的なR&Dセンターを展開する部品企業もある。

 エレクトロニクス商社のASEANでの技術体制拡充の動きも活発。従来の電子部品や制御部品販売に加え、現地でのニーズが強い工場自動化の支援のためのエンジニアリング事業を強化する企業が増加している。