2021.11.09 再エネの広がり、酒造産業にも大手メーカーや地域の老舗酒蔵、太陽光発電由来の電力活用
白鶴酒造の工場に設置された太陽光パネル
国内の再生可能エネルギーの広がりは、伝統産業にも及んでいる。太陽光発電由来の電力を作業工程に生かす酒造メーカーや地域の酒蔵も出始めた。自然のものを活用する産業であるため、気候変動問題などの余波も受けやすく、高い環境意識で向き合う。
老舗の大手メーカー、白鶴酒造(神戸市東灘区)が9月下旬から開始したのが太陽光発電の自家消費だ。同社の三カ所ある主な酒造工場のうち、最大規模の「本店三号工場」(同)において、3階と4階の屋上部分計約1300平方メートルにパネル約380枚を並べた。最大出力は約100kW。年間の発電量は、一般家庭約30世帯分に相当する約13万2900kWhを想定する。
酒をビン詰めやパック詰めして製品化するボトリング工場「灘魚崎工場」(同、2012年7月完成)では既に15年から屋上で太陽光発電を開始。約1180枚の太陽光パネルが、年間約31万5000kWhを発電する。こちらは再エネ固定価格買い取り制度(FIT)で売電しているが、今回のパネルで発電した電力は自家消費して酒造りの工程に活用していく。
本店三号工場は、冬場だけでなく1年を通して酒造を行う「四季醸造工場」。国内売り上げトップクラスの日本酒ブランド「まる」を、一部を除いて製造しているほか、製品全体でも生産の約4割を担っている主力工場だ。
工場では、原料となる米を蒸して冷ます「放冷」作業の設備や、発酵の際の温度管理などの工程で再エネ電力が使われているという。「酒造りは自然の力やものを使って進む。自然環境の影響を受けやすい産業だ。気候変動問題に絡んで、原料となる米の収穫は台風などの影響を強く受ける。当社もできるかぎり、高い環境意識で取り組んでいく」(同社)。
地元産電力を酒蔵で
再エネ系新電力のUPDATER(アップデーター、旧みんな電力)は、独自のブロックチェーン技術を活用して、どこの再エネ発電所で発電されたかが分かる利点を生かして各地の酒造家に再エネを供給している。
長野県上田市で350年続く酒蔵、岡崎酒造もその一つ。10月から再エネ100%の電力に切り替えた。10月が新米を収穫して酒を造り始める時期に当たることなどにちなんで業界団体が「日本酒の日」と定めた日でもあり、業界全体のPRの意味も込めた。
岡崎酒造は江戸時代前期の1665年創業。地元の自然に育まれた水や県産米を豊富に使い、酒の手造りを続けてきた。ブランド「信州亀齢」などを持つ。
酒蔵では、精米ほかさまざまな工程があり、温度や湿度といった繊細な品質管理などのために24時間電力を使い続けており、岡崎酒造の場合、年間に約9万3000kWhの電力を消費する。排出される二酸化炭素(CO2)量は約40㌧と試算され、スギ4545本が1年間で吸収する量に相当するという。
岡崎酒造では屋根にパネルを設置して発電してきたが、作業工程での電力を賄うため、さらに一歩進んで電力を切り替えた。地元産電力の要望に応じ、上田市の南方に位置する同県茅野市の水力発電所の電力が供給されている。
岡崎謙一社長は「先代たちからの歴史が詰まった日本酒を、絶やさず次世代につなげていかなければならない。そのために今、自分ができるアクションの一つが電力の切り替えだった」と話す。
アップデーターでは20年8月から順次、同様のプランで、石川県白山市の吉田酒造店、神奈川県大井町の井上酒造、千葉県神崎町の寺田本家にも供給を始めた。アップデーターは「電力の購入先を選べるという選択肢を環境意識の高い酒造家に提供し、供給を切り替えてもらっている」としている。