2021.12.10 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<68>北欧に学ぶローカル5G導入障壁の突破方法④
前々回(第66回)、日本の製造業者のローカル5Gに対する認知度は決して高くなく、導入の検討があまり進んでいない実態を垣間見た。
ノキアとノキアベル研究所が、日本におけるローカル5Gの導入を妨げる障壁に「認識」と「教育と理解」を挙げている。確かに道理だ。
そして前回(第67回)、この「教育と理解」の障壁を突破する方法をフィンランド教育の中に見いだした。それは「ローカル5G」を理解してもらう前に「ローカル5Gが、なぜ必要なのか?」を理解してもらう論理思考に持ち込むことだった。
例えば、有線通信を利用している生産工場の経営者にローカル5Gを紹介する際、いきなり「サブ6やミリ波の電波伝播(でんぱ)特性や超高速性、超低遅延性」といった話をするのではなく「工場の生産プロセス変革において、なぜ今、ローカル5Gが必要なのか」という話から始めることだ。いやその前に「なぜ今、無線通信が必要なのか」という話から始めるほうがいいかもしれない。
しかし、ローカル5Gの専門家は電波の話から始める人が多いのも事実で、むしろ当然だと思う。無線通信工学を専門とする人は、機械工学の領域である製造工場の生産プロセスの課題を把握できていない上、その課題を「無線通信でいかに解決するか」というところまで考えが及んでいないからだ。
では、どうすれば良いのか?
五つの能力を重視
ここで再びフィンランド教育の話に戻したい。「図説フィンランド・メソッド入門」(経済界)によると、フィンランドの基礎教育では、発想力、論理力、表現力、批判的思考力、コミュニケーション力の五つの能力を重視しているという。
そして、これらの能力を鍛えるために、授業では学生に対して「ミクシ?」(「なぜ?」という意味のフィンランド語)が頻繁に使われるらしい。その理由は「因果関係」を明らかにする論理思考を鍛えるためであって、白黒を求めるものではないからだそうだ。
たとえ常識に反することであっても、因果関係さえ明確であれば教師は学生の答えを否定しない。ところが、日本で「なぜ?」を連発すると、忌み嫌われる。
例えば「工場の通信を無線に変えませんか?」と言うとする。この質問に対して多くの工場関係者は「工場では有線通信が常識だ」と言うことが多い。このとき「なぜ?」と聞き返せるだろうか-。
聞きにくいのは筆者だけではないだろう。なぜなら日本では「常識」という回答は議論の終止符で、論理思考が続けられなくなってしまうからだ。
では、諦めるしかないのか?
一つ一つひもとく
日本では、相手に論理思考させるのではなく、「なぜ今、工場でローカル5Gが必要なのか?」という課題解決に向けた因果関係を、相手と共に一つ一つひもといていくことが求められるだろう。
その役目を果たすのが、「B2B2X」ビジネスモデル(第46回参照)における「センターB」と呼ばれる、製造現場に精通したDX(デジタルトランスフォーメーション)推進者だ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉