2022.01.21 【新春インタビュー】アルプスアルパイン・栗山年弘代表取締役社長執行役員

米国、欧州の現地生産化加速

 ―2021年はどのような年でしたか。

 栗山 20年に続き、21年も新型コロナ感染症に影響された一年でした。ワクチンの接種が進んだことで経済的な面では回復傾向となりましたが、半導体不足や部材不足、サプライチェーンの混乱、物流の逼迫(ひっぱく)などが経営に大きな影響を与えました。21年はサプライチェーンの混乱が全産業に波及した大変な年だったと思います。

 21年の自動車の世界生産台数は、半導体不足などが響き、結果的に8000万台を下回るとみられています。スマートフォンも、世界的な半導体不足やサプライチェーンの問題から計画通りの生産台数を達成できない状況でした。

 最近は原材料の値上げや物流費の高騰なども、モノづくり企業のコストを上昇させています。サプライチェーンの上流にいる素材系のメーカーは、コスト上昇分を価格に転嫁する動きがありますが、サプライチェーンの中間領域にいる電子部品メーカーは、さまざまな要因からコスト上昇分を価格に反映することが難しく、厳しさがあります。

 ―電子部品の需要面では、強い状況が続いているようですね。

 栗山 21年はコロナからのリベンジ消費もあり、エレクトロニクス製品や自動車に使用される電子部品需要も旺盛でした。しかしながら結果的にはサプライチェーンの混乱により、完成品・完成車メーカーなどが、製品の供給を十分に行えない状況になり、電子部品需要は22年も旺盛な状況が続くと予想しています。

 これらを踏まえ、当社としても、グローバル生産体制の見直しなどを進める必要があると考えています。特に車載モジュールなどに関しては、従来はアジアで生産して欧米の顧客に供給していた製品などについて、顧客の近場で現地生産を行う、というのが今後一年のテーマになります。

 当社は従来、米トランプ政権時の高関税政策への対応などで現地生産化に力を入れてきましたが、加えてサプライチェーンの課題を解決するための現地生産化を重視し、米国、欧州での体制づくりを加速させます。

 ―22年に向けた経営戦略は。

 栗山 19年1月1日付で、統合新会社の「アルプスアルパイン株式会社」が発足し、19年度(20年3月期)から第1次中期経営計画「革新的T型企業〝ITC101〟」を推進してきましたが、当初第1次中計で目指していた数値目標については、コロナ禍で予定通り進まなかった面があります。今春からスタートする第2次中期経営計画の中で、これらの数値をしっかりと達成していきたいと考えています。

 自動車関連のビジネスは足が長く、5年先のビジネスを今刈り取ることが基本です。今中計期間で、26年くらいまでのビジネスをほぼ固めることができていますので、22年からの3カ年に注力するのは27年以降のビジネスをしっかり刈り取っていくことです。スマートフォン向けも、3年くらい先のビジネスを確保させる活動を実施しています。

 加えて、ビジネスポートフォリオの面では、現在のポートフォリオの延長で30年ごろまでのビジネスが見えていますが、30年以降のポートフォリオをどのように考えていくか、ということも第2次中計の重要テーマになります。

 ―具体的な方向性は。

 栗山 現在の当社ビジネスのコアとなる領域は、「HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)」になります。加えて、第1次中計では、センサーと通信デバイスを活用したソリューションなどの展開に力を注いできました。HMI製品は「人に感動を与える製品」、センサーと通信を融合したソリューションは、「安全や環境に貢献する製品」というコンセプトになります。

 車載事業の新たなコンセプトとして打ち出した「デジタルキャビン」は、旧アルプス電気の操作・入力系デバイス、旧アルパインのオーディオやナビゲーションというそれぞれのHMI製品を融合した製品になります。これに対し、センサーと通信を融合したソリューションの応用例には、乗員をカメラでモニターすることによる安全確保や事故防止、車載5Gを活用した車外コミュニケーション、EV(電気自動車)のBMS(バッテリーマネジメントシステム)向けの電流センサーなどがあります。安全・環境における価値を高めるソリューションの提案を通じ、ビジネスを伸ばしたいと考えています。

ソリューションビジネス拡大

 ―新規事業強化の進捗(しんちょく)はいかがですか。

 栗山 センサーと通信デバイスを融合したソリューションにより、「EHII(エナジー/ヘルスケア/インダストリアル/IoT)」市場の開拓に力を入れています。従来の当社は、「モノ売り」の会社でしたが、近年は、これらのソリューション提案を通じた新たなビジネスの開拓が進展しています。

 例えば、単にロボットにIoT機能を付与するという販売の仕方だと「モノ売り」になるため、コストが採用決定時のポイントになります。これに対し「ソリューション売り」によって、「省人化したい」「工場でけがをする人を減らしたい」など顧客の課題を解決できれば、バリューになります。コストではなくバリューで売る、という形のソリューションビジネスを追求していきたいと思います。

 当社は21年に、IDEC社との合弁会社を設立しましたが、これも産業機器のソリューション販売を行うのが目的です。

 ―アライアンス戦略も活発化させています。

 栗山 最近のわれわれの業界では、ビジネスとして完結させるためには他社との連携が不可欠となるケースが多くなっています。外部発表しているもの以外でも、いろいろな企業とのアライアンスを進めています。

 ―今後の設備投資の方針は。

 栗山 第1次中計では、3カ年で総額2000億円の成長投資を目標に掲げましたが、最終的には1500億円程度にとどまる見通しです。

 このため、来期からスタートする第2次中計では再度、3カ年累計の成長投資2000億円を掲げていきたいと考えています。30年に向けたポートフォリオ構築のため、M&Aやアライアンスにも積極的に取り組む方針です。

 ―働き方改革の進捗はいかがですか。

 栗山 テレワークをはじめ、業務におけるITやDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用は随分進みました。ただし、真の働き方改革を進めるには、ITやDXの活用だけでなく、それによって、いかに生産性を上げていくかが重要です。働き方改革を通じて、「活人化」といった効果を発揮していくことが次の課題と捉えています。

 ―新型コロナ発生から、約2年が経過しました。

 栗山 最近はステークホルダー資本主義の重要性がより指摘されるようになってきていると思います。これは、企業があらゆるステークホルダー(利害関係者)の利益に配慮すべきという考え方ですが、例えば災害時などの有事対応でいえば、一部の企業が製品を買い占めたり、特定の顧客のみに優先的に製品を供給することを排除し、分配していくということです。多くの日本企業はこうした精神をもとに、有事には自社の利益のみを追求するのではなく、社会全体に等しく分配してきました。

 一方で、今回の業界のサプライチェーン混乱に目を向けると、これはグローバル規模で起きていることであるため、例えば半導体価格にしても、一部の外資系企業で非常識な値上げを打ち出すケースも見られています。物流関連にしても、海運関連企業がより高い運賃が見込める海上ルートにコンテナ船を集中させるような状況になっています。

 逆に日本の場合は、外部環境の変化に伴うコストアップ分を価格転嫁しにくいことが課題ですので、適正な値上げをしていく必要があります。しかし、サプライチェーンの混乱に乗じてコストアップ分を大幅に超えるような値上げを顧客に強いることは、ステークホルダー資本主義の考え方に反すると思います。残念ながら、こうした状況がグローバル規模で散見されているように感じます。

 ―今後の生産体制増強計画は。

 栗山 基本的には既存の工場インフラを有効活用していく形で対応していきたいと考えています。

 投資で重視するのは、開発体制を充実させるための投資です。国内では、いわき地区(福島県)、古川地区(宮城県)、東京地区を含め、それぞれをより強化していきます。その一環として「古川開発センター」(宮城県)のR&D新棟の建設が1月に始まり、23年完成を予定しています。

コストと技術両面のシナジーを

 ―経営統合後のシナジー効果はいかがですか。

 栗山 統合シナジーとして目指しているのは、コスト面でのシナジーと、両社の技術を統合することで新しい製品を生み出していくという二つが柱です。

 前者は、第1次中計の策定時に3カ年で200億円のコスト削減という目標を立てましたが、最終的には3カ年で500億円前後のコスト削減を達成できる見通しです。これは来期以降も継続して取り組みます。

 一方の統合シナジーを通じた新しい製品開発については、ハードウエアビジネスが主体の旧アルプス電気の開発力とソフトウエアに強みを持つ旧アルパインの開発力などを組み合わせ、革新的新製品を生み出すことを目指しています。まだ道半ばですが、引き続き取り組みを進めていきます。

 ―統合新会社では、「革新的T型企業」を志向していますね。

 栗山 旧アルプス電気の縦に深耕するコアデバイス技術と、旧アルパインの横に広がるシステム設計力・ソフトウエア開発力などを組み合わせた、縦と横のT型となり、革新的な新製品を数多く生み出す「革新的T型企業」を目指しています。T型を追求することで、ビジネスの幅を広げる活動を展開したいと考えています。

(聞き手=電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)