2022.02.03 【ハイテクびとInterview】未来を拓く技術者・研究者・担当者に聞く ニチコン開発センター開発四課主任 川澤智之氏
可搬型外部給電器
EV・PHV・FCVの電池から100Vの電気を出力できるニチコンの可搬型外部給電器「パワー・ムーバー・ライト」が、災害時の避難所や事務所の停電対策、野外のイベント、工事現場、レジャーなどの電源として使われている。エンドユーザー向け可搬商品のため、小型・軽量化、デザイン性、操作性、そして低価格化は開発テーマとして欠かせない。パワー・ムーバー・ライトの機構設計を担当し、開発テーマに取り組んだ川澤智之氏に話を聞いた。
-部品が黒子商品であるのに対し、パワー・ムーバー・ライトは、ユーザーが直接手に取り、触れられる商品ですね。
ユーザー目線で設計、小型・軽量化に創意工夫満載
川澤氏 ユーザーが持ち運んで操作される商品のため、メーカー目線ではなく、ユーザー目線で設計することを最も大事にしている。ユーザーの声を聞き、私自身も使ってみて体験することで課題や開発テーマが見え、次期商品に反映させている。機構設計の面白いところ、楽しいところであり、同時に難しいところでもある。
-パワー・ムーバー・ライトの開発テーマは何でしたか。
川澤氏 ユーザーの声で多かったのが、小型・軽量化してほしい。実使用では3kW出力で十分。高価なため安くしてほしい、デザインを良くしてほしい、だった。2017年に量産を開始した初期モデルのパワー・ムーバーは、4.5kW出力。頑丈な筐体(きょうたい)ということで軍用ケースを使っていた。そこで出力を3kWにし、ケースも当社初となる大型樹脂トランスケースタイプを自社でデザイン、設計し、軽量化、小型化に取り組んだ。ケースの板厚を見直し、強度を確保したい部分だけ厚くして、その他は減らした。内部のフレームも減らし、重量物の固定を1面でなく、3面にして力が集中しないようにしてケースの強度を確保した。構造体を簡素化し、組み立て部材の部品点数を6~7割削減。さらに、3枚基板を1枚の合体基板にしてハーネスも6~7割減らし、内部の高密度化を図った。熱対策は流体解析で小型化しながら排熱性を向上した。
-創意と工夫の連続ですね。
川澤氏 デザイナーの要求する丸みを帯びたケースデザインとケース成形上の制約との折り合いをつけながら、難燃ポリプロピレン(PP)材料の採用による成形性の低下や色ムラなどの発生を厚み調整やPPを流す位置などで最適化し、解決した。操作部を本体上部に配置し、移動時と使用時の姿勢を同じにした。車両電池残量も手元で分かるように使用可能目安LEDランプを付けた。コンセント位置を抜き差ししやすいよう上部に設け、2口のコンセントの間隔を広げ、大型の防水コンセントも接続できるようにした。
-開発成果は。
川澤氏 初期モデルのパワー・ムーバーと比べ36%小型化し、重さも約半分の21キログラムに軽量化に成功。価格も65万円を45万円まで抑えることができた。色も災害時用にはイエロー、レジャーやイベント用にはブルーの2色をそろえた。昨年8月にCHAdeMO認証を取得、CEV補助金の申請登録し、8月に発売できた。片手で楽々持ち運べる、さらなる小型・軽量化が次の開発テーマだ。
〈プロフィル〉
2011年富山大学工学部機械知能システム工学科卒、ニチコン入社。ニチコン亀岡で電気自動車用車載充電器の開発に従事。13年に加速器用・放射線治療用高精度電源や、高エネルギー開発機構向け加速器用電源、陽子線・重粒子線放射線治療機用電源開発に従事。18年がん治療用粒子線加速器電源の受注で社長表彰。17年大容量、自家消費、波力発電用分散電源、リユースバッテリー付き急速充電器の開発に従事し、20年からパワー・ムーバー・ライトの機構設計を担当。現在、次期型V2Hシステムの機構設計を担当する。