2022.03.01 レアメタルの「中国依存」に一石サマリウム系磁石で「世界初」の手法 東北大と東芝開発
開発されたサマリウム鉄系等方性ボンド磁石(提供=東芝)
ウクライナ情勢や新疆ウイグル自治区を巡る問題もあって、資源調達の在り方に注目が集まっている。磁石に使われるネオジム(原子番号60)も、そうした資源の一つ。電動車のモーターや風力発電、HDDなどで産業・生活を支えており、使用量は今後も増加が予想されている。ただ、埋蔵箇所は世界にあるものの、コストなどの面から競争優位にあるのは中国。中国からの輸入への依存度が高いことから、サプライチェーンのあり方などが課題になっている。そうした中、ネオジムに代わり得るものとして、東北大学大学院と東芝の研究者らはサマリウム(原子番号62)を利用する磁石の開発に取り組み、成功したと1日、発表した。世界で初の取り組みという。
サマリウム系の磁石は、ネオジム磁石が普及する40年ほど前までは、むしろ磁石の主流だった。磁石の性能は結晶の構造などで決まり、サマリウム系は磁気の方向がそろいやすい特徴がある。「70~80年代にウォークマンが広がったのも、サマリウム系あってのことだった」(研究者)。
その後、ネオジム系がパソコン普及を支えるなど、ITの担い手となる中で、サマリウムはコスト面の課題などから、脚光があまり当たらずにきた。ネオジムを採掘する際の副産物としても得られるが、余剰資源とされている面もあった。
ただ、ネオジムの調達には上述のような中長期の課題も指摘されている。そこで研究者らはサマリウムに改めて着目。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで、サマリウムと鉄に適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解した後、急冷凝固させる手法に取り組んだ。急冷凝固した合金に適切な熱処理を施すことで、高鉄濃度な化合物結晶の境目に、ニオブとホウ素を濃縮させることができた。「いわば、ふりかけで味を調整するようなもの。つなぎのような役目を果たします」(同)。
その結果、ネオジム合金では、原子が100とすればネオジムが13%分含まれるのに対し、今回のサマリウム鉄系合金では、サマリウムは6%分で済む。少ないレアアース使用量で磁石化に成功した形だ。それでいて、磁石が持つエネルギーなどは同等。また、磁石は温度が上がると磁力が低下(減磁)し、それが不可逆(温度が下がっても、元の性能に戻らない)といった課題があるが、その低下度合も少ない。つまり、モーターの中などで力を維持しやすい形だ。また、さびにくいといった特長は維持している。
研究者は「代替できるレアメタルがあり得るとなれば、産地側へのけん制球になる」とみる。値上げをしたり供給を抑えたり、といった動きが取りづらくなるとの見立てだ。
周期表で二つ隣にある、ネオジムとサマリウム。スピーカーなどで存在感を発揮していた後者に、ウオークマン以来およそ約40年ぶりの注目が、改めて広く集まるかもしれない。磁石をめぐる動きから目が離せない。
(1日の電波新聞・電波新聞デジタルで詳報しています)