2022.07.29 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<96>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤⑧

 毎年、お盆の時期になると思い出すのが、ご先祖さまのことだろう。筆者の祖父は、大阪の堂島で米英商社マン相手にテイラー(洋服店)を営んでいた。ところが、太平洋戦争が始まり客足が途絶えたことから、店を畳んで家族と四国へ疎開し、軍需工場で働き始めたのだそうだ。

 疎開先で祖父はウール生地を鉄板に持ち替え、ミシンの替わりに工作機械を扱う新たなスキルを習得しなければならなかった。同じモノづくりとはいえ、背広と飛行機とでは違い過ぎる。慣れない仕事に疲れ、終戦を待たずに過労死したと聞く。

 さて、「リスキリング」(reskilling)という言葉がデジタルトランスフォーメーション(DX)とともにはやっている。新しいスキルを習得して、別の仕事をできるようにするプロセスのことだ。

 経済産業省ではリスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義している。

 わざわざ「獲得する」としてあるのは、トップダウンで新たなスキルを身に付けさせるのは困難が伴う場合があるからだろう。筆者も祖父から学び、自身も講師として苦い経験があるので、その難しさは重々承知している。

デジタル技術教育、DXリテラシー教育、リスキング

自主性を重んじる

 リスキリングには、個々の適性を考慮した自主性を重んじることが肝要だ。『リスキリングとは-DX時代の人材戦略と世界の潮流-』(経済産業省/リクルートワークス研究所)によると、DX時代の人材戦略をリスキリングとするならば、「リスキリングによって、デジタル技術を使いながら価値を創造できるように多くの従業員のスキルが再開発される」としている。そのため「一部のDX推進者だけでなく、管理職を含む全従業員に対してリスキリングは必要だ」と強調している。

 世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で2020年に宣言された『リスキリング革命』でも、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、30年までに「十億人のリスキリング」を目指すとした。

 仮に先進国が主導するとすれば、未就学児を除く全ての人がリスリングの対象者となる計算だ。まさに「VUCA」時代は、リスキリングの大きなうねりが起きているともいえるだろう。

 そうはいっても全ての従業員に「5G基盤の下、IoTが収集したビッグデータと人工知能(AI)を使いこなせるようになれ」というのは、どだい無理な話だ。 

DX推進者の有志

 企業では、少なくともデジタル変革の適性があり、社内のプロフェッショナルとして現場のキラーサービスを模索しているDX推進者の有志と、彼らのアジャイル(試行錯誤)的な活動の良き理解者として支援するサポーターの二者に分ける必要があるだろう。

 後者には、前回解説した「DXリテラシー教育」が有効だ。もちろん、教育はデジタル技術の話をするより、現場の課題をいかにワイヤレスとデータ活用で解決するか、という身近な話から進めたほうがよい。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉