2022.08.04 【コンデンサー技術特集】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン

【図1】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの素子構造

はじめに

 SDGs(持続可能な未来を実現するための開発目標)に掲げられた開発目標達成に向け、さまざまな産業分野でカーボンニュートラルをはじめとする社会課題の解決に向けた取り組みが進められている。自動車・車載関連分野では、走行中の二酸化炭素排出量をゼロ化する電気自動車やWell to Wheel(油田からタイヤを駆動するまで)で排出量削減効果のあるハイブリッドカーの普及拡大を目指して開発が加速している。いずれもパワートレインの電動化のみならず、EPS(電動パワーステアリング)やEWP(電動ウォーターポンプ)などの各種重要コンポーネントの電動化も進められており、走行安全性能に直結することから、搭載される電子部品には高信頼性と高性能の両立が求められる。アルミ電解コンデンサーにおいては高温過酷環境への対応に加え、高リプル化、小形・高容量化などが強く求められている。

 また、情報通信分野では、第5世代移動通信システム(5G)の普及により、高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続の特長を生かして、自動運転の普及や遠隔医療の実現といった社会課題の解決に取り組まれている。電波特性から一つの基地局でカバーできるエリアが狭い5Gでは、4Gと比較して多くの基地局設置が必要であり、今後のエリア拡大においては、メンテナンスが難しい場所や温度、湿度面で厳しい環境への設置も想定されている。このような背景から、5G基地局では機器の小形化や過酷な設置環境を想定したメンテナンスフリー化を目指すことを背景に、搭載する電子部品に対しても小形化や高温度対応、長寿命化などの技術ニーズがある。

 今回、特に自動車・車載関連分野、情報通信分野における技術ニーズに対応可能な、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの最新技術動向について解説する。

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの構造

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは従来のアルミ電解コンデンサーや導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーと同様に素子、封口ゴム、アルミケースで構成される。素子は誘電体であるアルミ酸化皮膜を有する陽極箔(はく)と陰極箔の間にセパレータを介して巻き取り、各々の箔にリード端子が接続されている。この素子に電解質(真の陰極)を含浸・形成させ、封口ゴムおよびアルミケースで封止することで完成する(図1)。

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの特長

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは電解質に導電性高分子と電解液を採用していることから、導電性高分子の特長である低ESR(等価直列抵抗:Equivalent Series Resistance)性能と優れた高耐熱性能に加え、電解液によるアルミ酸化皮膜修復性能を有している。そのため、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高リプル電流化、長寿命化が可能であり、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低いことを特長としている。この理由を各電解質が有している特長および当社技術内容から説明する。

 アルミ電解コンデンサーに使用されている導電性高分子(電気伝導性の高い高分子化合物)としてはPPy(ポリピロール)やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などが挙げられるが、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーでは、特に耐熱性に優れたPEDOT(耐熱温度300℃以上)が一般的に使用されている。PEDOTの導電機構は電子伝導であり、イオン伝導を導電機構としている電解液と比較すると、その電導度は約1万倍と非常に高くなる。これは製品の大幅な低ESR化が可能であることを意味しており、なおかつワット損失(W=I²R W:発熱 I:リプル電流 R:製品抵抗〈ESR〉)の考え方により、リプル電流による製品自己発熱が低減できるので許容リプル電流の向上が可能となる。

 また、PEDOTの電子伝導は金属性の性質であり、電解液と比較し低温での材料抵抗の変化が小さい。したがって、PEDOTを用いた製品の温度依存性は小さく、幅広い温度範囲に対して安定した製品特性を示すことが可能となる。なお、導電性高分子の電子伝導性がESR特性として十分に発揮される周波数は、誘電体損失の影響が小さい1k㎐以上において顕著である(図2)。

【図2】ハイブリッドコンデンサーの周波数特性および温度特性

 当社の導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、上記PEDOTの性質を最大限に生かせるよう、PEDOTと併用する添加剤の最適化や素子への含浸性を高めるポリマー含浸方法、最小量のポリマーで低ESR化が具現化できるポリマー形成プロセスを採用している。導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのもう一つの電解質である電解液は溶媒と溶質、添加剤から構成されており、コンデンサーに要求される特性を考慮しながら配合成分を調整している。電解液の一般的な役割としては「アルミ酸化皮膜の修復性を有する」「耐電圧が高い」「比抵抗が低い」「蒸散性が低い(ドライアップしにくい)」「熱的・化学的安定性が高い」「電極箔および電解紙との濡れ性が高い」など様々挙げられる。

 当社、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーにおいては、特にアルミ酸化皮膜の修復性、低蒸散性、高温環境化での導電性高分子との反応性をポイントとした電解液を適用している。これにより、高温環境化で長時間使用しても電気的性能が維持できる高い信頼性を確保している(図3)。

【図3】ハイブリッドコンデンサーのESR経時変化(定格電圧印加125℃耐久性試験)

 以下、当社の導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーラインアップから、代表的なシリーズについて紹介する。

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー紹介

■135℃高温度保証および125℃高リプル品「GYCシリーズ」

 当社では125℃4,000時間保証の導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GYAシリーズ」、105℃10,000時間保証の「GYBシリーズ」を上市しており、両シリーズともに車載・民生・産機市場を中心に幅広く採用されている。市場要求の高まっている高温度化・高リプル化に対応するため、高温度対応品として135℃4,000時間保証(φ6.3は2,000時間)の「GYCシリーズ」を2019年にラインアップし、量産を開始している。

 GYCシリーズの特長は125℃と135℃の両温度にて定格リプル電流値を設定しており、お客さまの設計ニーズに応じて保証条件を選択できるようにしている。

 例えば、GYCシリーズを125℃環境で使用する場合、135℃環境に比べて1.3~1.8倍の定格リプル電流値を許容できる。この選択保証についてはお客さまにおいて利便性が認知されつつあり需要が拡大している。サイズは従来φ6.3×5.8L、φ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10Lの4サイズであったが、新たにφ10×12.5Lをラインアップし、従来のφ10×10Lと比較して高容量化、高リプル化ニーズに対応した。

■125℃超高容量・高リプル品「GYE/GYFシリーズ」

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの高容量化要求に応えるべく、GYAシリーズから1ランク高容量化となる「GYEシリーズ」を量産中(写真1)。サイズ体系はφ6.3×5.8L~φ10×10L、定格電圧25~35V、定格静電容量56~470μF、定格リプル電流値は1,100~2,800mArms(125℃100k㎐)であり、GYAシリーズから最大約1.4倍向上。

【写真1】ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GYEシリーズ」

 さらなる高容量化ニーズに対応するため、GYAシリーズから2ランク高容量化した「GYFシリーズ」を開発、今年4月から量産を開始した(写真2)。

【写真2】ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GYFシリーズ」

 GYFシリーズは高容量箔の適用および導電性高分子材料とその形成方法の最適化、電解液の最適化により高容量化と低ESR化を実現。定格リプル電流値はGYEシリーズからさらに最大約1.2倍向上している。本製品の適用により搭載機器のさらなる高性能化および小形化・軽量化に寄与することが可能。GYA、GYE、GYFシリーズの定格静電容量および定格リプル電流値について(表1)に示す。GYFシリーズはφ6.3×5.8L~φ10×10Lで定格電圧25~35V、定格静電容量68~560μF、リプル電流値1,200~2,800mArms(125℃100k㎐)でラインアップしている。保証はGYA、GYEシリーズと同様に125℃4,000時間(リプル重畳)保証とし、耐湿性能は業界最高レベルの85℃85%R.H.2,000時間を保証する。

【表1】静電容量および定格リプル電流値の比較

 なお、各シリーズのφ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10Lサイズは加速度30G保証となる耐振動構造へも対応可能な仕様としており、過酷な振動環境にも対応する。

今後の展望

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは低ESR、高リプル電流、温度特性や耐久性に優れていることから、特に自動車・車載関連分野、情報通信分野などで今後の需要拡大が期待されるとともに、技術ニーズはさらに高度化していくと考えている。

 当社はこのような予測にも基づいて、2016年に東京大学生産技術研究所と産学連携研究協力協定を締結してスタートした共同研究スキームも活用し、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのさらなる長寿命化、高耐熱化、高リプル化、高容量化に向けて、導電性高分子と電解液の共同研究に取り組んでいる。この研究取り組みから産み出される新しい材料技術を活かした新製品を開発し、お客様のニーズに最適な製品ラインアップの強化を図っていく。
〈ニチコン(株)〉