2022.08.09 電気、熱、CO₂の「トリ」活用エア・ウォーターグループが農業で脱炭素化技術

ガラスハウス内で栽培されるトマト

ガラスハウスが並ぶ安曇野菜園ガラスハウスが並ぶ安曇野菜園

バイオマス資源有効に

 産業ガス大手のエア・ウォーターグループで農業事業を手掛けるエア・ウォーター農園(札幌市中央区)が、長野県安曇野市で、地域のバイオマス資源を有効活用してエネルギーなどを最大限に取り出す「トリジェネレーション」に取り組んでいる。「トリ」が意味するのは、電気と熱に加えて二酸化炭素(CO₂)の三つ。CO₂と親和性の高い農業に適用することで、社会のカーボンニュートラル化に向けた技術として普及も目指す。

 取り組んでいるのは、エア・ウォーター農園が運営する安曇野菜園。標高500~600メートルの敷地約10・2ヘクタールに、ガラス張りの温室が並ぶ。

 中ではトマトを育てており、栽培面積は約4.8ヘクタールに及ぶ。取り出したCO₂をハウス内に注入する効果で収穫量が1割以上増えて、年間1800トンを収穫できる。

 燃料として従来使用したプロパンガスを代替できる仕組みで、年間で約600トンのCO₂を削減できる。この仕組みが6月末、国の「J-クレジット制度」に登録された。再生可能エネルギーの活用や、省エネ設備の導入でCO₂を削減できた量を国が認証する制度で、削減量をクレジットとして取引できることになり、お墨付きを得た格好だ。クレジットは2022年3月末~30年3月末まで認証される予定で、グループ内外で活用していく。

 同園では20年4月に、発電と熱供給ができるコジェネレーションを導入した。その仕組みを発展させる形で、CO₂供給の機能を追加。21年7月にトリジェネレーション施設を稼働させた。

 具体的には、間伐材などをチップ化し、蒸し焼きにすることでガスを発生させ、燃やして発電する。電力は、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)で売電しているが、燃焼時に発生する熱やCO₂を、隣接するガラスハウスで利用するのがミソだ。

国内初の施設

 同社によると、ガス化発電設備を活用したトリジェネレーション施設は国内では初めてという。

 熱はハウス内の温度調整に使い、CO₂は不純物を除去してハウス内に供給。トマトの栽培に役立てる。エア・ウォーターによると、この効果でトマトの成長が促進され、収穫量を十数%増加させることが確認されているという。

 また、廃熱の活用で、従来のプロパンガスのコストを年間1000万円程度、低減させる利点もある。

 一方でトリジェネの課題は、燃料として必要になる木質バイオマス資源の確保だ。同園では近隣を森林が囲んでいることから、長野県森林組合連合会などの協力を得て、地域の間伐材など未利用材の供給を年間2万5000トン受けて有効活用する。「地域で処理に困っているバイオマス資源があることが前提」(同社)だが、地産地消できる農業のモデルとして全国に普及させることも視野にある。

北海道でも

 エア・ウォーター農園は、北海道千歳市にも農地を持ち、スマート農業を試験的に始めている。ブロッコリーなどを路地栽培しており、上空からドローンで撮影。最適な収穫時期を判断する試みなどに取り組んでいる。