2022.08.09 初のぬいぐるみマスコットに挑戦カワチの「のびねこ」誕生秘話

とぼけた表情とやみつきになる手触りが特徴の「のびねこ」シリーズは、発売以来約50万個を販売。全国各地の観光地の限定デザインなど約250種を展開する

カワチの石橋社長(右)と納冨さんカワチの石橋社長(右)と納冨さん

 とぼけた表情とやみつきになる手触りが特徴のぬいぐるみマスコット、「のびねこ」シリーズ。全国の観光地で限定デザインが販売され、今年8月初旬時点で約250種をも展開する。のびねこ目当てに観光地を訪れる人もあり、累計50万個超を販売したヒット商品だ。同シリーズの企画・開発を手がけるカワチ(大阪府東大阪市)に、のびねこ誕生秘話を聞いた。

 同社は河内貝釦製造として柏原市で1947年に設立。貝素材のボタンやアクセサリーを製造していたが、次第に貝細工の土産物も手がけるように。2016年に東大阪市へ移転。現在は観光地やテーマパークのキャラクターグッズなど、土産物の企画・開発・卸しを手がけている。

 のびねこが誕生したのは、2017年。同社が得意としていたのは固い立体のマスコットキーホルダーだったが、初めてぬいぐるみマスコットに挑戦することに。

 同社の石橋聡社長は「すでに土産物として手がける他社が複数あり、当社は『四番煎じ』。それでも勝つにはどうすればよいか、と社内でアイデアを出し合った」と振り返る。

 ぬいぐるみのモチーフには、「ネコノミクス」にあやかってネコを採用。さらに、当時流行していた伸びる布地を組み合わせ、デザインも合わせて「伸びるネコ」にした。

 完成したのびねこは、なめらかな手触りで伸縮性がある布地を使用しているため、むちむちとした独特の手触りに。上下にひっぱると、ネコの胴体がさらに長く伸びる。

 デザインは、発売当初から企画・デザイン部の納冨倫奈さんが主に担当している。顧客の要望や指定のモチーフを使い、一つのデザイン当たり1~2時間で仕上げることが多いという。

 発売以来、約250種が誕生。各地の名産品の着ぐるみを着たものや、コスプレをしたものなど様々なバリエーションがあり、コレクター心をくすぐる。

 納冨さんの「推しのびねこ」は、洋服を着たタイプ。「バスケットボールのユニフォームや坂本龍馬のコスプレをしたものが特にお気に入り」(納冨さん)だそう。コレクターから「もっと洋服を着ているデザインを出して」とラブコールを受けることもあるのだという。

 のびねこ目当てに観光地巡りをする人や、コレクターによるSNSでの情報発信も盛んに。「のびアニマル」「のびマリン」なども展開し、のびシリーズの販売数は計約104万個にものぼる。

 しかし、新型コロナウイルス感染症が流行し、同社も打撃を受けた。石橋社長は「観光業界は地盤が固まっているようで不安定。観光土産品の一本柱ではなく、複数の柱を作らねば」と力を込める。

 そこで、同社が新たに開拓した営業ルートが、釣具屋だ。「ダメ元」(石橋社長)で始めたという「のびのびおさかな」マスコットがまたもや当たり、店頭で一度手にした人は皆レジへ持っていくほど人気を集めているという。

 石橋社長は「釣りをする人が、狙っている魚種のマスコットをリュックサックなどにつけてくれている。今後も種類を増やしていきたい」と語る。

 ヒットを続けるのびシリーズだが、石橋社長は「この人気はいつまでも続かないだろう」と冷静だ。「当社は1ロット1000個で製造し、当たらなければ1000個で終了する。ヒットしても何回転かすれば、新鮮さは薄れる。人気商品を生み出すには、当たったもの、当たらなかったものを分析し、次の商品開発に生かすことが重要だ」と語る。

 同社は今後、新たな営業ルートとしてペットやガーデニングもターゲットとして取り組んでいく方針。同社のものづくりの秘訣について、石橋社長は「会議では“あほなこと"を率先して言うのが、私のスタイル。皆でワイワイ楽しく、時には真剣に、とりあえずやってみようという姿勢が大切」と話していた。