2022.10.06 【自動車用電子部品技術特集】すぐに暖まる車載向け透明ヒーターフィルムを販売開始 シライ電子工業
【写真1】透明フレキシブル基板(SPET)
1.はじめに
論語に「君子の徳は風なり、小人の徳は草なり。草之に風を上(くわ)うれば、必ず偃(ふ)す」とある。これは、上に立つ者の徳は、風のようなものであり、下にある人の徳は草のようなものであり、比喩でいい心がけ、いい習慣を大切にすれば、必ずいい風が吹き、成功にたどりつけるという意味で、創業者から学んだことである。今では創業者から経営体制も代替わりをした。それでも私が、成功にたどりつけるために新規事業に挑戦し続けて、常にいい風を吹かせようとしているのは、創業者から多くのことを学び、社会に役立てることができる能力が持てた恩義を感じていた感謝の気持ちからなのかもしれない。新規事業の商品は、車載メーカーと共同開発した自動運転用部品の防曇・融雪用途の商品で、“すぐに暖まる車載向け透明ヒーターフィルムの販売開始について”としてPR情報を開示している。それでは、透明ヒーターフィルムを紹介する。
2.透明ヒーターの種類
透明ヒーターは、製造しているメーカーごとに導体の種類、基材、加工方法が異なり、おのおのに一長一短の特徴がある。導体の種類で大別すると下記5種となる。
①酸化インジウムスズ化合物(ITO)
②導電塗料(PEDOTなど)
③金属ナノインク
④金属ワイヤ
⑤金属箔(はく)(SPETなど)
2-①.酸化インジウム スズ化合物(ITO)
スパッタ法などでガラスもしくはフィルムにITOを成膜した透明ヒーターである。この利点は、透明で電気が流れることである。しかし、透明度を保つためには膜厚を薄くする必要があり、必然的に抵抗値が高くなる。さらにITO膜が硬いため、曲げなどに対して割れる欠点がある。
2-②.導電塗料(PEDOTなど)
ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の分散体を主成分とするPEDOTの導電塗料を用いた透明ヒーターである。透明な導電塗料を印刷工法で形成できることが利点で、透過型静電スイッチから普及した技術である。ただし、経年劣化でPEDOTの抵抗値が変化する欠点がある。
2-③.金属ナノインク
金属ナノ粒子サイズになるとバルク状態より融点が下がる特徴を活かし、基材にインクを塗布後に低温焼結し抵抗を低くすることができる利点がある。ただ、低温といっても焼結温度がまだまだ高いため、その焼結温度に耐える基材を使わなければならない欠点がある。
2-④.金属ワイヤ
車のリアガラスのデフォッガーに代表される金属ワイヤを、ガラスやフィルムに埋め込んだ透明ヒーターである。イニシャル費が掛からないなどコスト面の利点がありヒーター実績は多い。ただし、金属ワイヤはヒーター線が見えるので死角を利用した採用に限られる。
2-⑤.金属箔(SPETなど)
透明な基材と金属箔をラミネートして、金属ナノインクよりも抵抗値が低いことが利点の透明ヒーターである。金属箔は厚膜で金属配線が不透明のため、薄膜のように透明にすることができない。
このように透明ヒーターには利点と欠点があり、製品要求によって最適な透明ヒーターを使い分ける必要がある。
3.透明ヒーターフィルム(SPETシリーズ)
今回、紹介する透明ヒーターフィルムは、透明フレキシブル基板Super-Polyethylene-Terephthalate(SPET)シリーズの一つである。透明フレキシブル基板(SPET)は、【写真1】のように透明なサブストレート上に銅箔をラミネートし、配線を描くことで作製する。
透明ヒーター以外の応用例は、LED表示器やイルミネーション【写真2】、透明ドットマトリクスディスプレー、5Gアンテナ、ヒューマンマシンインターフェース、フィルムインサート成型・賦形(ふけい)の3D基板【写真3】など多くの採用実績がある。透明ヒーターフィルムの特徴は下記3点である。
①高透明、高耐熱なサブストレート
②低抵抗なヒーター線
③自由なヒーター設計
3-①.高透明、高耐熱なサブストレート
サブストレートの全光線透過率が90.0%と透明度が高い。さらに、透明ヒーターフィルムにサーミスターなどの電子部品を実装できるようにリフロー耐熱温度は180℃と高耐熱である。
3-②.低抵抗なヒーター線
ヒーター線に体積抵抗率が約1.8×10⁻⁸Ω・m(20℃)の銅を用いることで、ほかの金属よりも低い抵抗値である。さらに、シート抵抗値は1.42mΩ/□であり、一番低いITOのシート抵抗値と比較しても10分の1以下の低い抵抗値である。そのためヒーターをすぐに温めることや、低い消費電力で駆動することができる。
3-③.自由なヒーター設計
ヒーター性能、透過率、耐環境性、制御回路搭載などの要求に対して、自由にヒーターの設計ができ、また加工ができる。透明ヒータフィルム上でON-OFFなどの温度制御回路ができることが特徴である。
4.採用事例(ヘッドランプヒーター)
透明ヒーターフィルムは、ヘッドランプに後付けするヘッドランプヒーター(写真4)に採用された。降雪時にヘッドランプの表面に付着した雪が溶けず、夜間のヘッドランプの光が遮られ視界が確保できないという欠点を補うためである。ヘッドランプの光を透過させるため車検対応の全光線透過率75.0%以上とした。ヒーター性能は、停車時や高速道路運転時などの低温環境を-10℃と-20℃と設定し、ヒーター駆動後1分30秒以内に雪を溶かし、曇りをとる温度上昇をΔT 30℃以上(図1)とした。
さらに、ヘッドランプヒーターが洗車やチッピングによる傷防止や、紫外線や降雨時の耐環境性も付加することで、走行時の安全性にも配慮した製品である。
5.最後に
防曇・融雪対策に必要な透明ヒーターは、透明ヒーターフィルム(SPET)が飛び抜けて優れている訳ではない。ただ、透明ヒーターフィルム(SPET)は、ミリ波レーダー用ヒーター、LiDAR用ヒーター、カメラ用ヒーターなど車載分野でも採用され、先進運転支援システム(ADAS)の自動化レベルを上げるサポートをすることで、安心で安全な車社会の実現に貢献している。これは、社会に役立てることができる能力を学び、それが車載メーカーに認められた結果であると考える。
透明ヒーターフィルム(SPET)は、いい風を吹かせて成功にたどりつけた。新たな挑戦をすることで得られるさまざまな人との出会いを大切にして、これから活躍する若い人たちに安心して働ける場と挑戦できる機会の提供ができれば、これからもいい風が吹き続けると考える。
<シライ電子工業(株) SPET事業部>