2022.10.28 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<108> 信長は来たのか? デジタル変革の行方①

 5Gは来たのか?

 いささか皮肉めいて聞こえる自問に答えるため、筆者は岐阜を訪れた。

 いさり火が川面を照らす鵜(う)飼いで名高い日本三大清流の一つとされる長良川。その船着き場から美濃の民家が連なる川原町を抜けると、紅葉が始まったばかりの金華山が現れた。その頂上に立つ岐阜城は、斎藤道三が居城していた頃は「稲葉山城」と呼ばれていた。

 「信長公記」によると、織田信長が天下統一の足掛かりとして入城した際に「岐阜城」に改めたという。「岐」は「周の文王が岐山より起こり、天下を定む」という中国の故事から。「阜」は孔子の生誕地「曲阜(きょくふ)」から、太平の地となるようにという信長の願いに由来するらしい。

 「論語」にも登場する文王は、多くの優れた人材を育成して国を変革した英雄として知られている。優れた人材が多いという意味の四字述語「多士済済」も、文王の下に集う多くの賢者がそのいわれとのこと。岐阜に来た信長は、戦乱で荒廃した城下町を復興させるために「楽市楽座」と「関所撤廃」の政策を打ち出し、社会経済システムを変革した。

 当時の〝市〟は寺社の境内や門前に限られており、店を開くに当たって〝座〟と呼ばれる同業者組合を介して場所代を寺社に支払わなければならなかった。信長はこのシステムを廃止し、誰でも、どこでも商売できるように市場を開放した。

 この楽市楽座をローカル5Gと重ねてみると面白い。通信事業者による全国向け第5世代移動通信規格5Gサービスとは別に、誰でも「自己の建物内や土地内」であれば、どこでも、個別の課題解決やニーズに応じたユーザー密着型ローカル5Gサービスを始めることができる。通信料もかからない。

 さらに当時の商人たちにとっては、関所を通行する際の通行税と、人やモノの検査が商いの障害となっていた。信長は、この関所を撤廃することによって流通を円滑にし、経済を活性化させた。

 ローカル5Gは、関所撤廃にも似ている。IoTで収集した膨大なデータを携帯電話などの広域網経由でクラウドへ転送する場合、ビジネスの障害となる遅延や通信コストが発生する恐れがある。

 これをローカル5Gで自営網を構築し、データ処理をクラウドからエッジ(現場側)へ移すとどうだろう。超高速のデータ転送ができるだけでなく、人工知能(AI)を使ったデータ分析結果による超高信頼・低遅延のロボット制御が可能となり、通信コストも減らせるようになる。

データ流通円滑に

 工場だけではない。土地や建物内での閉じたビジネスやサービスを行う事業者にとっては、内と外の境目にあるのが関所だ。この関所を無くすことで、モノの流通が円滑になるのと同じように、ローカル5Gを活用すればデータの流通も円滑になるというわけだ。

 明日をも知れぬ戦国時代に、変革の旗印と共に信長は来た。戦国時代と同じように先が見通せないVUCA時代の今、果たしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の旗印と共に5G(信長)は来たのか?

 岐阜城を見上げながら、金華山ロープウェー乗り場へと坂道を登った。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉