2022.11.10 【パワーデバイス・電源用部品技術特集】エス・エッチ・ティ 小型高精度カレントトランス“GEOMACK”EI-16Hの技術解説

【写真1】小型高精度カレントトランスEI-16H “GEO MACK”

はじめに

 近年、電磁方式の電流センサーであるカレントトランスは唯一、電流波形が直読できるとして見直されている。

 PV発電の普及とともに大電力4k~6kWを扱うV2H、EV給電用DC/DCコンバーターや各種変換機器の開発が進められており、電圧からの電流値検出と同時に交流電流波形を捉えて低損失、小型化、回路の簡素化へゼロクロススイッチング回路の動作タイミング検出が求められており、今後新たな使用法として期待される。

 電磁方式は電源高調波歪電流や、電圧・周波数などの不安定な海外電源事情においても交流電流波形を直接実効値で捉えることができ、同時に1次~2次間の安全絶縁機能を有するので、従来のヒートポンプを用いたインバーター式エアコン各種方式や、脱炭素化の流れで空調に化石燃料を用いる特に欧米にて注目を集めている燃焼系からA2Wへ置き換える温水暖房機(国内例:エコキュートなど)には交流電流センサーとしてインバーター制御用に用いられている。

 しかし基本構成である電磁鋼板コアの熱処理や組み立てなどのばらつきから、出力電圧の精度が低く±2~4%程度にとどまることから、ほかの方式として電流波形の直読はできないものの、電圧精度を確保しつつ制御回路と親和性の高い直流実効値を捉えるシャント抵抗やホール素子、MR素子等の導入が増えている。

ねらい

 電磁方式の交流電流波形を捉えてゼロクロススイッチング回路動作タイミングを検出するニーズに応えるとともに、燃焼系に比べヒートポンプ式の弱点であった電源立ち上げ時におけるさらなる急速冷暖房性能の向上を求めるセットニーズに応えるため、独自開発の技術(末尾項に示す)を用いて桁違いの「出力電圧の高精度化」を図り、特に家庭用電源ブレーカーの15Aや20Aといった電流容量限界に至近する電流ブレーカーとして交流電流を検出する高精度カレントトランス【写真1】として開発、出力電圧精度は保証値にて従来当社比±3%から、桁違いの±0.5%【グラフ1】を実現する技術を提供するものである。

 以下に技術解説を述べる。

効 果

 その効果は例えば20Aブレーカーの場合、通電可能電流値の差は20A×(3%-0.5%)⇒0.5Aとなり、200V系電源とすれば200V×0.5A⇒100Wの差が生まれ、これにヒートポンプの300~500%といわれる熱変換効率を仮に400%とすると100W×4.0⇒400Wとなる。これは家庭用一般電熱器1000~1200Wの2分の1~3分の1に相当し、約400W程度の急速冷暖房効果が追加して得られるということになる。

 この限界に迫る急速冷暖房効果は定格を基準とする現在の国内省エネルギー法では評価対象には含まれないものの、部屋別に電源を入れ省エネ冷暖するヒートポンプ式インバーター式エアコンでは、厳冬の欧州や酷暑の米国などにおいてお客さまの強いニーズに即するもので、実使用にて大変有効に機能することが想定される。

さらなる効果の限界へ

 搭載するセットの実装設計ではカレントトランスの2次出力側に終端抵抗を配置し、その両端電圧を検出するので終端抵抗の許容差±0.5%が加わることになり、実質許容差は±0.5%(カレントトランス精度)+ ±0.5%(終端抵抗許容差)⇒±1.0%と悪化する。

 ここで新たな改良アプローチとしてセットインバーター制御設計の協力を得て、実質±1.0%と悪化する出力電圧の精度の良化を図る手段として、ケース表面へ製造出荷検査時全数個々に測定した出力電圧値をデータマトリクス印字し、これをセット生産ラインにてリーディングし、個々にインバーター回路制御ICにライティングすればカレントトランスの出力電圧精度は実質±0%になる。これにて残る終端抵抗の許容差±0.5%のみとなりブレーカー機能としての電流設計の狙い値の高精度化はこれらにより磁気方式でありながら、終端抵抗を含むセット実装設計した状態での出力電圧精度で±0.5%を達成できる。

 なお、50㎐、60㎐ごとの出力電圧はケース表面に別々に表記しており、インバーター回路制御ICで周波数検出により演算処理することが可能である。またデータマトリクス表示はQRコードに比較してコンパクトであり、各種トレーサビリティー機能として活用できる。この小型ケースは周囲部品との基礎絶縁を図るとともに自動実装を可能とする形状としている。外観図とともに【図1】に示す。

【図1】小型高精度カレントトランスEI-16H 外観図 データマトリクス表示 例

他の方式との比較

 カレントトランス方式とは異なる入力交流電流検出方式について比較し【表1】に示す。

【表1】小型高精度EI-16H 入力交流電流検出方式比較

(1)他の方式1として、シャント抵抗を商用電源整流後の直流回路に挿入して、オペアンプと直流絶縁機能付きマイコンにて実効値を測定してインバーター制御に用い、同時に1次交流電流値を理想サイン波形としてマイコン演算にて求め、電源ブレーカーの電流容量限度設計を行う方式がある。既存回路を流用し低コストで成立するものの、総合した交流電流の出力電圧精度は±3~4%程度になる。

(2)他の方式2として、方式1と同様にシャント抵抗を直流側に挿入し両端電圧を、フォトカプラーを用いて絶縁機能を付加し直流実効値を直読する方式がある。オペアンプやマイコンを用いないので比較的安価で構成できるが、数ボルト程度の電圧が必要となり、シャント抵抗値が高くなり損失が増加する。抵抗の精度によるが、出力電圧精度は±2~3%程度にとどまる。

(3)他の方式3として、ホール素子を内蔵したDC-CTを商用電源整流後の直流回路に挿入して、オペアンプと直流絶縁機能付きマイコンにて実効値を測定してインバーター制御に用い、同時にサイン波である1次交流電流値をマイコン演算にて求め、電源ブレーカーの電流容量限度設計を行う方式がある。ホール素子を用いるため損失は大幅に抑制できる利点があるが、ホール素子自身の出力実効値許容差が±1~1.5%あるため、サイン波演算電流値の総合出力電圧精度は±3.5~4.5%で一般的なものである。

(4)他の方式4として、最近では直流回路に挿入した電流ICのみで直接出力電圧を得る方法がある。IC内にホール素子を内蔵して実効値を測定し内蔵アンプを用いて出力する方法で±2.5~5.0%程度のものがラインアップされている。この方式はセット実装にてノイズの影響を受けやすいといった弱点も見受けられる。

比較まとめ

 このように他の方式は総じてインバーター回路を制御するためにシャント抵抗やホール素子を用いて直流電流の実効値を検出し、マイコンにて交流入力電流を理想サイン波形として演算にて求め電源ブレーカー15Aや20Aといった電流容量に応じた交流電流値を設定するもので、いずれも交流値に置き換えた出力電圧精度は±2.5~5%にとどまる。

 また、ここまでは電源高調波歪電流には言及しなかったが、現実的にはヒートポンプ式のインバーター回路は各種方式で違いはあるものの、何らかの理想サイン波形とは異なる歪サイン波形を直流値から想定する必要があり、マイコン演算方式では少し余裕を持ったブレーカー電流設定が必要となる。この点において当社の入力交流電流を直読し±0.5%の高精度で検出するカレントトランスとは異なるものである。

最後に

 当社では“SHT”の社名ロゴ表示と区分し、新たな技術横断型ブランド“GEO MACK”(ジオマック)【図2】として要素技術を磨き上げ、桁違い精度や重量・体積半減など、世界に通用する比類なき価値を備えた独自製品群に与えている。

【図2】SHT社名ロゴおよびGEO MACK

 今回のEI-16H小型高精度カレントトランスは電磁気方式で交流電流専用ではあるものの、1次~2次間の安全絶縁機能を有し、「出力電圧の高精度化」を従来当社比±3%から桁違いの±0.5%を実現し、セット側の協力を得ることで実質±0%を達成。加えてコア材は、電磁鋼板を用いることから、その良好な磁気特性により温度特性をほぼ気にせず設計できるなど、画期的な商品として“GEO MACK”を冠し表示している。

 今回解説した急速冷暖房に寄与する高精度ブレーカー制御機能とリニアな出力電圧特性を生かし、家庭用では比較的使用電力が大きくインバーター回路を用いて電源ブレーカー電流容量限界を扱う調理家電類のIHクッキングヒーター、IH式炊飯器、電子レンジなど、各種電力機器にも好適である。

 また、ゼロクロススイッチング回路の動作タイミング検出については周波数に限界があるものの、用途や回路に応じたコア材含む磁気回路を専用設計すれば、タイミングのみならず波形も正確に捕捉できることは言うまでもない。

独自開発の技術*1

・磁気特性を制御するコア熱処理技術

・高精度を確保する専用設計の磁気回路技術

・高精度で磁気回路を組み立てる技術

・桁違いの高精度計測技術

*1 関連する特許3件出願中。

 〈(株)エス・エッチ・ティ 研究開発部 今西恒次〉