2023.01.01 【AV総合特集】各社の23年事業戦略 日本アンテナ 瀧澤功一社長

瀧澤 社長

ミリ波帯特化の電波暗室導入
水蒸気量観測データ提供も

 昨年は新型コロナウイルス感染症による影響の継続やウクライナにおける有事に加え、円安の影響や原材料の高騰によって物価が上昇し、当社もこれらの影響や事業環境の変化により足元の状況は厳しいと言わざるを得ない。

 一方で新たな事業の芽が育つ気配もある。その背景として、5Gサービスの拡大や企業や自治体が独自で構築するローカル5Gの進展が挙げられる。中でもローカル5Gはさまざまな業種業態で導入されることとなり「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」といった5Gの特徴をさらに生かせるミリ波帯への期待も高まっている。

 直進性が高く減衰しやすいミリ波には、特定の方向に強い電波を集中させるビームフォーミングによる制御技術が不可欠になる。また、電波の送受信範囲を対象者がいる任意の方向へ制御する必要もある。この難易度の高い技術を開発するために、当社はミリ波帯に特化した電波暗室と3D計測システムを導入した。この設備を活用し、5Gだけでなく「Beyond 5G」に向けて市場のニーズに応えていく。

 さらに、将来に向けた活動にも取り組んでいる。既に地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測データの提供環境を整備した。当社は以前から情報通信研究機構(NICT)と共同研究を行い、身近なテレビ電波を受信することで水蒸気量を観測する装置を開発してきた。

 この装置は線状降水帯発生の早期予測への貢献が期待されており、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究課題に参画し進めてきたものだ。

 研究成果として、昨年末に当社コミュニケーションサイト「日アンねっと」に特集ページ「地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測データの提供」を開設。水蒸気量観測データを提供できるようにしている。

 これにより、線状降水帯発生の早期予測だけでなく防災や減災に貢献できると考えており、興味のある企業や研究機関はぜひ問い合わせてほしいと考えている。

 そのほか、自家発電で監視用カメラなどの機器への電源供給と情報伝達を可能とするソーラーシート一体型アンテナも開発した。IoT技術へのニーズはますます高まり、機器も増え続けている中、課題となるのが電源供給だ。

 IoT機器には電池が使用されるケースが多く、電池交換の保守メンテナンスが付きものだ。特にシステムにつながるデバイスが多い場合は電力使用量が増え、電池交換の頻度が増える。

 電池交換が困難な場所に取り付けられている機器の場合は、取り替えること自体が課題となる。このような課題に対しソーラーシート一体型アンテナを活用することで、例えばへき地などにおいて土砂崩れの発生やそのほかの災害などの監視に活用することもできるため、導入できるよう準備を進めている。

 これらはいずれも当社の「サステナビリティ基本方針」に基づいた取り組みの一環で、今後もサステナブル社会の実現に寄与すべく、まい進していきたい。