2023.01.11 【新春インタビュー】シャープ・沖津雅浩副社長

〝家まるごとAIoT〟めざす

 ―2022年を振り返って、いかがでしたか?

 沖津 ウクライナ情勢や、4~5月にかけての中国・上海ロックダウン、さらに物流費・材料費の高騰、半導体不足もありましたし、特にわれわれの事業に一番影響を及ぼしたのは円安でした。まさに波乱に満ちた一年でした。

 ―白物家電事業は、20年度、21年度にかけ好調でしたね。

 沖津 私は国内や海外で白物家電事業に40年以上の長きにわたって携わってきましたが、当社の白物家電事業は特に2000年代を中心に厳しい状況が続いておりました。

 私が2013年に当時の健康・環境システム事業本部長に就任した時は、1ドルが90円台前後の動きをしている時で、100円を超えれば赤字になるくらいの事業でしたが、今では140円になっても赤字にはならない強さになっております。

 20年度、21年度は特に好調で業績を伸ばしましたが、これも社員の皆さんがスピード感を持って頑張ってくれて原価力がついたことや、海外事業を伸ばせたことが大きな要因です。

 いま本社に来て、全社の事業を見る立場になってからは、状況も大きく変わりましたので、いろいろ手を打ってまいります。

 ―CEOも交代され、体制が一新しましたね。

 沖津 呉柏勲CEOは45歳と若いですが、これから経営を長期的視点に立って見られるのは強みです。

 彼は日本の事業をある程度私に任せてくれていますし、海外でのことには彼が力を入れてやっておりますので、意見も出し合いながらお互いの関係性を強化し、連携しながら臨んでいきたいと思います。

 ―厳しい経営環境の中で、少しずつ芽が出てくる事業は何でしょうか?

新分野への挑戦

 沖津 液晶パネルではこれから伸びるAR/VRといった新分野や、車載関係に注力しています。車載用パネルは近年大型化しておりますので、そういう領域に人・モノを投入していくことが重要です。

 それから、CEATEC 2022のアワードで経済産業大臣賞を受賞した屋内光発電デバイス「LC-LH」にも期待をかけています。これは、液晶パネルの生産ラインを活用できることと、地球環境にも貢献できるということです。2050年のカーボンニュートラルにふさわしい商品ですので、これを普及させていきたいと思っています。

 家電関係でいけば、特長のある新製品をたくさん作りたいですね。他社よりも先に製品を出していくというDNAを今こそ生かすべきだと思います。

 また長期的に見て人口減少となる中で、ソリューション開発も重要です。事務機関連でも複合機を核に、会議システムなどさまざまなソリューションによるスマートオフィスの提案に力を入れていきます。

 ―B2C分野でもソリューションは重要ですね。

 沖津 家電で申しますと、AIoT家電を使って、ほかの機器やサービスとつながることで何か新しい価値を提供するということがこれから重要になっていきます。

 今の段階はまず機種数を増やそうということで、現在12品目750機種までAIoT家電のラインアップを増やしましたが、これをどう活用していくかというステージに本格的に入っていくことになります。

 当社は、テレビ、ほとんどの白物家電、ソーラー、蓄電池、スマートフォンといった、家に入る家電機器の大半を持っている数少ない総合家電メーカーです。われわれは住宅・住設事業は持っておりませんが、ないものについては、各メーカーと協業し一緒になって、家全体の快適性、利便性、安全、セキュリティーといったことを実現するAIoTハウス(スマートハウス)を仕上げていきたいと考えています。

 われわれは〝家まるごとプラズマクラスター〟といってPCI(プラズマクラスターイオン)搭載家電の普及に力を入れてまいりましたが、これからは〝家まるごとAIoT〟も合言葉となります。ソーラー・蓄電池システムとAIoT家電との連携で、カーボンニュートラル実現にも貢献できる家づくりを目指していきたいと思います。

ESG経営に全力で取り組む

 ―今後伸ばしていくデジタルヘルスケア領域では、どういう事業を展開されますか?

デジタルヘルスに力

 沖津 われわれのヘルスケア事業は病気になってから治すような医療機器ではなく、病気にならないように予防するという観点から、お客さまの健康に貢献できる機器、ソリューションを提供していこうとするものです。

 特に、食・水・空気の分野に関係する機器ですね。その一つがPCI技術で、過去よりアカデミックマーケティングに取り組み、第三者機関による検証を進めてまいりましたが、今回新たにコロンビア大学で実空間に近い環境で、かつ新型コロナウイルス(オミクロンBA.1株)の減少効果を確認できました。こういった検証に基づき、空気関連でどう貢献していくかということです。

 また食の分野では、ヘルシオで減油・減塩による健康的な食事を提案していますが、これをさらに進展させて健康アドバイスや健康食品の宅配といった広がりを考えています。

 このほか、われわれは各種のセンサーを持っています。CEATECでも展示させていただきましたが、バイタルセンシング用超小型センサーを用いて、指を置くだけで脈拍などさまざまなバイタル指標が一瞬で測れる技術も開発しています。

 この技術を使って、医療機関や医療従事者と連携して健康アドバイスをするなど、いま現に薬局が一般の方に向けてさまざまな健康アドバイスに取り組んでおられますので、そことの連携も考えていきます。

 ―貴社はESG経営に力点を置かれていますね。

真のグローバル企業へ

 沖津 強いブランド企業〝SHARP〟の構築に向け、①健康関連事業のさらなる強化②カーボンニュートラルへの貢献③人(HITO)を活(い)かす経営④真のグローバル企業へ、と四つの重点項目を掲げています。

 人(HITO)を活かす経営においては、特に若手を活用したいという強い思いを持っています。これからソリューションに力を入れようとする中で、やはり経営資源として求められるのは人ですからね。

 また真のグローバル企業へ、については以前からわれわれが目指してきたことですが、いま事務機関連は7割と海外比率が高いですが、白物家電やテレビでは5割程度です。テレビでは7割、白物家電もまずは6割まで海外比率を高めたいと思っています。ブランド事業全体でもおおむね6割まで早急にもっていきたいと考えております。国内は成熟市場ですので、伸びる海外に力を入れなければ勝ち残れません。3年スパンで6割を実現するよう挑戦します。

 われわれはとりわけアジアに力を入れておりますが、経済成長とともに、ドラム洗が売れたり、エアコンではノーマルタイプからインバーターエアコンへとシフトするなど、付加価値の高い商品も売れ始めています。新規需要開拓と合わせ、買い替えユーザーには付加価値の高い商品の提案に力を入れることで、金額ベースでも伸ばせる余地があります。アジアではナンバーワンメーカーを目指したいですね。

他社に先駆け新しい商品出す

 ―23年にかける意気込みをお聞かせください。

 沖津 そうですね。22年は変化の多い年でしたけれども、23年は経済もよくなるでしょうし、為替の状況も円高に多少振れるなど、22年と比べ経済環境が当社にとって改善するとみられる中で、家電では日本国内で新しい商品を、他社に先駆けて出していくことは絶対にやらなければなりませんし、海外についても付加価値の高い商品を続けて出していくことが第一となります。

 B2B領域につきましても、これまで3年間ほど種まきをしてまいりましたが、事業として実を結び始めてきたものもございますし、これを早く刈り取っていきたいと思います。例えば業務用レンジが大手コンビニに採用されましたし、既存事業以外の領域でも家電事業を伸ばしていきたいと思います。テレビではAQUOS XLEDをハイエンドテレビの定番にしていきます。

 テレビについて申しますと、テレビ視聴人口が減る中で、お客さまが何をしたいかを考えて、良いなと思ってもらうモノを出していくことも必要でしょう。ホットクックもコロナ禍で在宅時間が増え、お客さまがこれは良いということで売れました。お客さまが欲しいという商品を増やしていくことが大切です。

 さらに23年において家電のキーワードは省エネでしょう。いかに省エネをアピールするかも外してはいけません。電気代や諸物価が高騰する中、むしろ省エネ性の高い家電を提案する好機でもあると思っています。

 ―ありがとうございました。
(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長・平山勉)