2023.01.18 【情報通信総合特集】市場/技術トレンド AI
富士通と東海大が、超音波AIを活用して冷凍マグロの鮮度を冷凍状態のまま評価する技術を共同開発した
分野の垣根越え活用広がる
多分野で技術開発が進展
人間のように学習したり判断したりできる人工知能(AI)。デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業にとって重要なテーマとなる中、AIは分野の垣根を越えて活用の幅が広がり続けている。企業や自治体の「困り事」の解決にAIが登場するケースは、新型コロナウイルスをきっかけに飛躍的に拡大。新たな市場開拓を狙うIT各社の開発競争は、さらに熱を帯びそうだ。
富士通は、冷凍マグロの鮮度を超音波AIを活用して冷凍状態のまま非破壊で評価する技術を東海大学と共同で開発した。マグロの身を切る必要がなく、冷凍マグロの価値を維持しながら鮮度を評価できる世界初の技術だ。富士通人工知能研究所の穴井宏和所長は「マグロの身を切ることなく冷凍マグロの価値を維持しながら、場所を問わず誰でもマグロの品質評価を行える」と胸を張る。
天然マグロの大部分は漁獲時に船上で急速冷凍されて消費者に届くが、漁獲時の状況や流通過程での管理によって品質は大きく変わる。冷凍マグロの品質の判別では、マグロの尾の断面を熟練者が目視で確認する「尾切り」と呼ばれる選別手法が一般的だが、目視での確認は熟練者の職人技に頼ることになるため、品質評価の管理や価格高騰を招く要因とも指摘されている。
共同研究グループは、マグロを品質評価する技術として超音波AIに目を付けた。研究の過程で冷凍マグロの超音波検査が可能な周波数帯を発見。正常な検体に比べ、鮮度不良の検体は中骨からの反射波が大きいことを突き止め、AIの機械学習を使って非破壊で鮮度の判定を行うことに成功した。
今後実証を重ね、2~3年後の市場投入を目指す。
営農へのAI利用を進めるのはNECだ。カゴメとの共同出資で昨年9月に立ち上げた新会社「DXAS Agricultural Technology(ディクサス アグリカルチュラル テクノロジー)」を通じて、AIが水や肥料の最適な量やタイミングを判断して自動で投入するトマト農家向けのサービスを始めた。
NECの農業ICTプラットフォーム「CropScope(クロップスコープ)」に機能を追加してサービスを実現した。実証試験では、従来より15%少ない水量で収穫量が2割増えたという。煩雑で手間のかかる手動での作業が不要になり、作業負荷の軽減が期待されている。
NECはAI研究用のスーパーコンピューター構築に数十億円を投じ先端研究も加速させる。今春にも国内企業最大規模のシステムを稼働させる予定で、AIに特化した国内最高峰の研究環境で先進AIの迅速な開発を目指し、世界的に激化する開発競争で優位性を発揮したい考えだ。
スタートアップ企業を含めAIを組み込んだシステムを手掛ける企業は増加の一途をたどっている。こうした状況を背景に、AIを導入したい企業に、最適なシステムを橋渡しする新たなサービスも動き出した。
IoTのシステム開発を手掛けるMODEは、AIを使ったサービスを提供する企業と、導入を検討する企業をつなぐ「AIパートナープログラム」をスタート。AI技術の提供企業と、AIを使いたい企業の架け橋となり、AIによるデータ解析を活用した業務効率化やDX推進を後押ししている。
センサーなど機器がインターネットにつながるIoT技術を使って現場のデータを収集し、AIで解析して業務改善に取り組む企業が増える一方で、AIを提供する企業は、顧客企業がAIの学習に必要なデータを持っていないケースや、どのデータを収集すべきか提案できないなどの課題を抱えている。
AIの導入を検討するユーザー企業も、データ収集から解析までの運用ノウハウや、多数あるAI提供企業の強みや違いが分からないといった壁に直面することが多い。
MODEのAIパートナープログラムでは、AIを提供する企業とAIを使いたい企業の橋渡し役をMODEが担い、分析に必要なIoTデータの供給や分析、ビジネス開発のノウハウを提供する。上田学CEOは「AIの導入はハードルが高いと思われているが、『データのソムリエ』として敷居を下げていきたい」と意欲的だ。
IT専門調査会社IDC Japanは、2022年の国内AIシステム市場規模を前年比29%増の3576億3400万円と予測。21~26年の年平均成長率は24%で推移し、26年には8120億9900万円に達すると見込んでいる。