2023.07.21 【家電流通総合特集】東芝コンシューママーケティング 鈴木新吾代表取締役社長
東芝ストアーの店頭展示強化
発想力・提案力を伸ばす
今年の夏商戦は好調というわけではないが、お客さまに響くような製品は販売が順調だ。省エネを切り口としたエアコンの高級機や、付加価値の高いドラム式洗濯乾燥機などがそうだ。特にドラム式洗濯機はライフスタイルの変化や洗浄力の向上などがあり、販売が2桁伸長している。
系列の地域電器店「東芝ストアー」は、6月から個展を軸にお客さまとの接点活動を強化している。個展の状況は二極化している印象で、準備をしっかりと行い、新しい取り組みにも積極的なストアーは販売が2桁伸長するなど成果が出ているが、苦戦しているストアーも見られる。
市場自体は決して好調というわけではないため、来店客数は前年並みといったところだ。
一方で、物価高もあって平均単価が上がっている。高付加価値な製品への関心も高いため、単価はさらに上昇傾向にある。
昨年には全体的なストアー政策を変えた。ストアーの魅力を高めるために、今年秋から新製品の店頭展示を増やす提案に力を入れていく。例えばドラム式洗濯機は高級機で40万円ほどもする。それほどの高級機を、お客さまが実機も見ないでカタログだけで購入するのは決断が難しいだろう。
ただ、ストアーにとっても1年後などの展示品の入れ替えも見据えた提案でなければ、安心して店頭導入できないはずだ。処分時の価格まで見据えた提案をきちんと行い、ストアーの不安感を取り除いた上で導入できるようにしていく。まずはドラム式洗濯機とスティック掃除機の新製品で取り組む。
店頭展示を増やすことは、ある意味原点回帰であるとも言える。思いとしては、導入店を今の4、5倍に増やしたいと思っている。新製品の店頭展示を増やし個展などでの成約率がアップすれば、ストアーの活性化にもつながる。
ストアーには、メーカーの商品企画とは異なる発信力や提案力がある。夏商戦ではエアコンや冷蔵庫といった夏の定番商品に目が行きがちだが、例えば暑い夏に包丁や火を使わないレンジ調理の提案があっても面白いのではないか。夏だから暑さを避ける調理提案で、エアコンにプラスアルファする形でオーブンレンジを販売するなど、発想次第で売れる製品を作れると思う。
当社にとっても提案力は非常に大事。デジタル技術を活用して情報の横展開を図りやすくし、組織としての効率を上げるだけでなく、能動的な活動に社員が時間を割けるようにしたい。商品を単に説明するだけでなく、相手にしっかり伝わる提案力が身に付くよう時間をかけて組織全体をアップグレードしていく。
量販店とストアーという販売店に近いのが当社の特徴。ハードウエアの性能や機能を理解するだけでなく、社会環境やニーズなどを考慮し、それをどう伝えればよりお客さまに理解してもらえるかを考えていくことが重要だ。
「線」で成長へ
今は市場環境も厳しい。だからこそ3カ月や半年、1年など先々を見据えて種をまくことが大切だ。仕事を「点」ではなく「線」にするという考えで、この先も成長できる土台を作っていく。
新型コロナも5類に移行してリアルなイベントが増えている。当社も以前は、販売店向けに「MST」と呼ぶ新製品の体験イベントを開催していた。コロナ禍で控えていたが、今年の下期からは各地で開催したいと思っている。今年の春に一部でMSTを開催したところ、非常に好評だった。デジタル化で効率よく提案することも増えたが、実機を見て、触って、体験することは、やはり大事だと思っている。
今年は9月以降も市況が急によくなるということはないだろう。エネルギー価格の高騰は続くので、省エネへの関心も高いままのはずだ。
家電以外の支出に消費者の目が向いているため、量販店にとっては、来店客数を含めて先につながる取り組みが必要で、当社としてもそうした視点で製品や販促策などを提案していきたいと思っている。
能動的な接点活動を軸に比較的安定しているストアーは、より良い製品を届け、売り方の提案力も高めることで、さらに単価アップを図れる可能性がある。価格が安い単機能レンジで十分というお客さまにも、伝え方や提案の工夫で、多機能型のオーブンレンジにアップグレードできる余地はある。こうした取り組みの一つ一つが、ストアーの商売では大切になる。
マーケットの声重要
東芝ライフスタイルの事業部とも密に連携し、マーケットの声を届けることも重要だ。製品開発に生かしてもらい、お客さまの生活の質を高める製品の実現につなげる。
冷蔵庫では、容量500リットルで片側左開きの製品をラインアップするが、これは他社にないもの。左開きはニーズが小さいように見えるが、売り場での提案の仕方次第でヒットにつなげることも可能ではないかと思っている。
こうした差別化された製品の存在感を高め、他社がキャッチアップする前に販売していきたい。
製品が持つ魅力の伝え方一つで売れ行きは変わる。市場が活況とは言い難い現状では、お客さまの動きを見ながら、需要を掘り起こすような活動が求められてくる。