2023.10.06 【高専生のための半導体特集】熊本高等専門学校 熊本キャンパス 産学官連携の実践教育取り入れ

半導体人材の育成について語る角田准教授

フォーラムやインターンなど実践教育を推進する熊本高専フォーラムやインターンなど実践教育を推進する熊本高専

クリーンルームなど研究設備も充実クリーンルームなど研究設備も充実

「考えるだけでなく、手を動かす」

 九州は多くの電機メーカーが半導体関連工場を置き、別名シリコンアイランドとも呼ばれている。中でも熊本県は半導体関連企業の進出が多く、昨今では台湾TSMCが新工場の建設を本格化し国内外から注目されている。

 半導体の集積地にもなってきている熊本県にある熊本高等専門学校は、産学官連携による実践教育を取り入れている。現在、国立高等専門学校機構が取り組む未来技術の社会実装教育の高度化「GEAR5.0」と、次世代基盤技術教育のカリキュラム化「COMPASS5.0」を推進している。

 熊本キャンパス(熊本県合志市)情報通信エレクトロニクス工学科の角田功准教授の研究室には、半導体や金属などの素材を調べるための分光測定装置、電子顕微鏡、X線解析装置のほか、クリーンルームも完備。学生が研究で実際に使用し、モノづくりから評価までの一連の流れを体験しながら学べる環境を整えている。

 角田准教授は「考えるだけでなく、手を動かすことが大切だ」と話す。教育方針としては、学生自ら行動することを大切にしており、「研究設備にトラブルが発生した場合、業者への連絡などの対応も含めて学生自身に行ってもらっている」という。

 半導体産業を含め、社会では技術だけでなくコミュニケーションも重要になるとの考えから、学生のうちから社会人と話す機会を設けていくという狙いもある。角田准教授は「失敗を経験することで、原因や課題を自分で見つけて解決する力を身に付けてほしい」と学生らに期待を込める。

 実践教育の一環として最近は企業や自治体と連携した取り組みを強化。昨年、佐世保高専で新たに開講した科目「半導体工学概論」を2022年度の後半から熊本高専でも取り入れた。

 講義では、企業の研究者や技術者を講師として招いた出前授業や工場見学なども実施。企業の話を直接聞きたいという受講者は多く、1回の講義で100人近くが集まるという。全学科の学生が受講できるほか、オンライン配信も実施している。「全国のさまざまな分野の学生に半導体産業の魅力をアピールすることも狙いだ」(同)という。

「半導体材料・デバイスフォーラム」実施

 産学連携の取り組みでは10年から「半導体材料・デバイスフォーラム」を実施している。昨年10月に熊本大学工学部で開催した第13回では、全国各地から高専・大学・企業関係者などが参加。オンラインを含め492人が参加し、うち約300人が現地に訪れた。

 もとは学会向けの発表会だったが、現在は大学関係者の発表、企業の基調講演、学生の研究発表など幅広く実施。キャリア教育の一環で、企業や大学からの高専生向けの説明もあり、将来の進路の選択肢を広げている。

 参加企業は半導体関連だけでなく建築業など他業界の企業も参加。企業や教育機関との新たな連携につなげるほか、学生に対し企業や他校とより深いコミュニケーションを図っていく狙いもある。

 昨年のフォーラムでは、熊本大学の青柳昌宏卓越教授の講演のほか、高専生や大学院生による口頭発表17件、ポスター発表19件の研究報告が行われるなど活発な議論が交わされた。学生の研究成果発表は、半導体に詳しくない企業や学生にも伝わるように工夫するスキルが求められるため、フォーラムを通じての学びは多い。

 大学・企業セミナーでは進路を考える学生に有益な情報が提供され、質問する学生も多数見られた。

 フォーラムは全学科の学生が参加できる。半導体産業は化学や機械、情報通信までさまざまな知識と技術が密接に関連しており、それらの分野を専攻する学生にも就職の選択肢としてアピールするためだ。

 角田准教授は「半導体はあくまでベース。その上にいろいろな産業が成り立っている」と話し、「他分野に半導体産業の魅力を伝えることが今後の人材獲得で必要だ」と強調した。

 第14回は12月9日に九州工業大学情報工学部とオンラインのハイブリッド開催を予定している。

 角田准教授によると、半導体人材が不足する中、「特に足りないのは設計人材だ」という。教えられる教員が少ないことも要因の一つで、他校のオンライン授業などを活用しながらカバーしていく計画だ。

 半導体産業を志す学生に向けて角田准教授は「設計、プロセス、材料、どの分野に行ってもいい。とにかく楽しんでほしい」とエールを送った。