2020.03.10 【デジタルで克つ 東芝の挑戦】(上)CPSテクノロジー企業目指す

 クラウドやAI(人工知能)、IoTといったデジタル技術を使い新たな価値を創出していく「デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)」を次の成長の要と捉える企業が増えている。

 この1、2年は〝デジタル〟がキーワードになり、国内電機各社はデジタル領域を軸にした事業の創出に力を入れ、しのぎを削る。経営再建に取り組んできた東芝もその一社だが、ここにきて一気にデジタルにかじを切り始めた。

 東芝グループは18年11月に発表した会社変革計画「東芝Nextプラン」を遂行し、サイバー技術(ICT)とフィジカル(実世界)技術の融合により社会課題を解決するサイバーフィジカルシステムズ(CPS)テクノロジー企業になることを掲げている。まさしくデジタルを前面に出した成長戦略だ。

東芝が目指す姿

 Nextプランスタートから1年。V字回復できるメドがついた車谷暢昭会長兼CEOは、電波新聞社のインタビューで「製造業としての収益力を回復させるフェーズ1から、新技術を使った東芝らしい新しい社内ベンチャーを育てることとデジタル事業を組み合わせた成長を目指すフェーズ2に入っていく」と述べ、計画が新たな段階に入ることを強調した。

 ただ、デジタルを軸に成長を実現するといっても課題は多い。既にデジタルの領域ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ぶ米巨大IT企業の時代になり、中国の百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)を指すBATも存在感を高めている。簡単に同じ土俵では戦えないことは明白だ。

 こうした時代にいかに世界で戦うか。今、東芝ではエネルギーから社会インフラ、物流・流通、ビル、モノづくりまでの幅広い現場の知見と、ICTの両方を持つ強みを生かしたサービスモデルの構築と同時に、長年開発を継続してきた最先端技術を生かしたサービスの創出を目指している。

 実際、車谷会長は「東芝はCPSテクノロジー企業になる資格がある。技術者も技術力もある」と見る。しかし技術力だけで成功できないのが今の世界であり、「エンジニア集団なので技術力はあるが、事業化やビジネスモデル化するところが弱い」と課題も指摘する。

 そこで、サービスモデルの創出とともに進めているのが外部人財の登用だ。近年、電機各社も外部から優秀な人財を招聘(しょうへい)する事例が増えているが、東芝が注目したのは、海外の動きも含めデジタルで幅広い知見を持つ、独シーメンス日本法人で専務執行役員などを務めた島田太郎氏だ。

多様な施策打つ

 18年10月に全社のデジタル事業責任者となった島田氏は、デジタル事業の新たな成長モデルをつくり上げるため、東芝の資産を生かした様々な施策を打ち始めている。

 同氏はドイツ政府が産業のデジタル化に向けて進めるプロジェクト「インダストリー4.0」の中で、シーメンスがどのような取り組みをしてきたか見てきた。

 19年4月には執行役常務兼CDO(最高デジタル責任者)、サイバーフィジカルシステム推進部長となり、20年4月からデジタル関連の中核企業・東芝デジタルソリューションズの社長に就任する。

 島田氏が注目するのは、GAFAなどが成功してきた「スケールフリーネットワーク」(リンクが一部のノード〈点〉に集中しているネットワーク)と、これにより発生する「パーコレーション現象」(一定のしきい値を超えると一気に浸透していく現象)だ。

 この二つを軸にしたビジネスモデルが成長の要になるという。東芝が考えるデジタル時代の戦略を、島田氏のインタビューを通じてひもとく。(つづく)

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