2024.01.01 【新春インタビュー】パナソニック 品田正弘社長
エリアに合わせお役立ちを考える
―新年おめでとうございます。昨年一年を振り返っていかがでしたか?
品田 足元は景気が厳しく、全社的に事業ごとの業績にはコントラストがつきました。巣ごもり需要の反動で消費の行動が耐久消費財からレジャーなど外向き消費になっているため、国内家電の総需要は減少している半面で、国内の電材は大型のプロジェクト需要が旺盛で好調に推移しています。海外電材事業も堅調に拡大しています。また、コールドチェーン機器も、米国の景気が好調なため、ハスマン社の業績が好調です。
その一方、欧州でのヒートポンプ給湯暖房機エア・ツー・ウオーター(A2W)は、ガス料金を下げるなど主要国での政策の転換があり、一時的にヒートポンプ暖房への補助が減少したことで需要が減少しました。ただ、欧州の社会課題に直結する事業ですので、長期的には成長する事業に変わりありません。
―国内の家電関係ではヒットした商品も多かったですね。
引き算の商品企画
品田 そうですね。新しい需要を創出するのはメーカーとしての使命ですからね。われわれの中では未来の定番と言っておりますが、機能や特長をたくさん盛り込むのではなく、必要なもの以外はそぎ落としてダイレクトにユーザーに刺さる商品を出す、引き算の商品企画に取り組んでいます。
そうしたものの中で、ラムダッシュ パームインとか、パーソナル食器洗い乾燥機SOLOTA(ソロタ)など大変好評なヒット商品も登場しました。
ユーザーに刺さる商品を開発する一方、われわれは新しい販売スキームに取り組み3年ほど経過していますが、今では白物家電全体の40%程度(金額ベース)まで販売ウエートが高まっており、全てのカテゴリーで定着するようになりました。
例えばSOLOTAでいくと、もともとベースとなる食洗機でわれわれはシェアを9割持っていましたが、一機種ごとに見ると、モデルチェンジが早く、価格低下を避けるために1年でマイナーチェンジをしておりました。
今では商品サイクルは3年くらいになりましたので、開発リソースを、本来われわれがやりたかったSOLOTAのような商品に割くことができるようになったのは新販売スキームの最大の効果です。
ビューティー商品でも、新販売スキームにより、モデルチェンジせずに価格が下がらない商品が出てきましたし、ミルボンと協業し、美容室専用の美容液噴霧機能付きヘアドライヤー「ELMISTA(エルミスタ)」を開発するなど、メインストリームの商品サイクルを長くすることで、新しい需要に応える商品開発につなげる良い循環が出来上がっています。
―地域を支える専門店に対するサポートも重要ですね。
品田 これからの高齢化社会を考えた時、地域においてはなくてはならない重要な社会インフラです。高齢化の中で、いわゆる家電難民は徐々に地方では増えています。こうした方々をどうテイクケアしていくかは重要で、専門店はわれわれの最大のパートナーであることは揺るぎません。
われわれメーカーとしても労力を惜しまず、しっかりサポートさせていただきたいと考えております。地域ごとの事情に応じて、やれることを愚直にやっていきます。
そういう中で、パナソニックマーケティングジャパンに、昨年エリア社をスタートさせました。それぞれのエリアの特性に合わせ、どう自分たちの販売網を、専門店、量販店問わずお役立ちできるか、深く考えるヘッドを地域ごとに置きたいと考えたからです。
今までのようにLE社、CE社と分けずに、よりエリア全体を見た時に地域単位にプランニングしやすいことを意図しました。地域ごとにしっかり高齢者問題など社会課題に向き合っていくことは、エリア内におけるパナソニックのお役立ちの維持・発展につながります。今はまだ試行錯誤の部分もございますが、量販店向け、専門店向け販促施策をそれぞれに流用し、リソースを柔軟に振り向けられるようになり、割合良いスタートを切れたのではないかと思っています。
―量販店とのSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)協業も取り組んでおらますね。
SCMで共同作業
品田 お客さまのところにいかにジャスト・イン・タイムで商品をお届けするかということは重要です。現在、試験的にSCMの共同作業をある量販店と進めていますが、2024年はこれを大きく拡大していく計画です。在庫を多く持つと双方にメリットがないこととして共通の認識が持てるようになっております。ジャスト・イン・タイムで欠品なく商品をお届けすることこそが、メーカーの一番のお役立ちと思っています。
需要創造につながる商品開発だけでなく、サプライチェーンの部分でも体質強化に取り組んだ足跡が具体的に残せましたので、24年はもっと貢献度合いが広がっていくと思います。
幅広い領域でソリューション提供
―海外事業での手応えはいかがでしょうか?
1社で全部マネジメント
品田 海外は、例えばインドの場合、22年に一社化し、電材、家電、システムソリューションをやっている会社など全部を一社でマネジメントする体制を整えました。
今まではメインに電材を扱う旧アンカー社(現パナソニック エレクトリックワークス インド)や家電を担当していた旧パナソニック マーケティング インドにB2Bの組織があるという形でした。
そうしますと今まで配線器具のプロジェクト案件があれば、配線器具や電線しかお客さまに提案できなかったのが、一社化することで例えばVRF(ビル用マルチシステム)といった業務用空調などを含め、幅広い当社の製品群について壁をなくし、ワンフェースで一体提案ができるようになりました。
お客さまに対して付加価値が高まり、幅広い製品群を持つ優位性が、お得意さまへの貢献に直結するようなことが進み始めているという点で、海外事業に関する手応えを感じております。
海外のお客さまの期待は、当社の持つ幅広いくらしの領域において、一社がきちんとジャパンクオリティーのものでソリューションを提供できるということであり、これが、当社の大きな付加価値となります。
セールスフォースのツールを使ってお互いのプロジェクト案件を共有し、照明で頂いた案件に対して、空調やサイネージ、家電も提案できるといった体制が出来上がりつつあり、インド市場での大きな可能性を感じています。
また、インドでは食品ロスも大きな課題で、農場から食卓に届くまで食材が50%廃棄されているそうです。それほどロジスティックスも悪いし、国土も広いので、食べられる状態のまま保存されたり、運ばれたり、店頭で維持したりといったことが十分でなく幅広いコールドチェーン普及の可能性も広がっています。
このほかインドネシアは、2億8000万人と東南アジア最大の人口を持ち、中間層が相当大きく伸びておりまして、ものすごく可能性のある市場だと思います。富裕層にとどまらず、政府は約2000万円以下の住宅購入には税金を免除するといった支援もやっておりまして、どんどんマンションも建設が進んでいます。そこにはエアコンや冷蔵庫、洗濯機も入りますし、大きな可能性があります。
さらに、ジャカルタからカリマンタンに首都移転を進めていますが、そこでは新しい街ができ、インフラも整備され、ビジネスの可能性が広がります。
現地の優良パートナーと連携し、もっとインドネシアの発展に、家電、照明、空調、電材など空間全体のソリューションを提供し、貢献していこうと思います。
―幅広い商材を持つ強みが生かせれば、さらに提案の幅が広がりますね。
品田 くらしの領域で見ると食、健康、エネルギー領域において、さまざまな商材を有していて、40年くらいまでの先を見てこの領域でのお役立ちを目指したいと考えています。
食に関しては調理家電や業務用調理機器、コールドチェーンが、健康では空質空調やビューティー商品などが関連しますし、エネルギーでは水素関連事業など、当社の幅広い事業を横断的に提案していくためにも、個別の事業においてしっかり商品開発を地道に取り組んでいきます。
新しい需要を創造する商品出す
―物流問題、材料高騰、部品不足などの影響についてはいかがでしょうか?
品田 物流費や原材料価格の高騰は落ち着きを見せ、外部環境の影響で業績が大きく左右されることは減っています。
材料の複数購買も進んでいます。設計段階から、調達先の材料の強度など性能を視野に入れながら、使いこなせるように進めてきました。必要な時に必要な量を、一社に頼らず複数から調達、あるいは内製化するといった手法はこの2年だいぶ強靭(きょうじん)になっております。
―ウクライナや中東でのさまざまな地政学リスクが現実化していますね。
品田 これらへの対応は難しい面はございますが、幸い当社はロシア、ウクライナ、中東のビジネスは大きくなかったので、実際のビジネスへのインパクトはわずかでした。このほかにも、米中デカップリングなどさまざまな地政学リスクは存在しますが、実際にマーケットで起こっている動きは異なることもあり、両面で見ておくことは必要だと思っています。
―中国ビジネスについてはいかがですか?
品田 中国ビジネスについてはCNA(中国・北東アジア)社をつくり、これまで業績を伸ばしてきましたが、景気が減速していることは確かですね。いろいろなマーケットのコンディションは、国の政策にもよりますので、市場の動きに俊敏に対応したビジネスの展開が重要だと考えております。
―マーケティング戦略も重要になりますね。
おもてなしの心生かす
品田 いま日本には、円安効果もあり、海外から観光客が大勢来られるようになりましたが、日本の文化や、おもてなしの心は、世界からもベーシックに尊敬されるものだと思います。こういうものをどう家電製品のマーケティングに生かしていくか、特にこれを海外マーケティングの基本形として、もっとやらなければいけないのは大きなテーマです。従来なら日本は日本、アメリカはアメリカなど、地域ごとに現地主導で任せていましたが、海外で日本の良さを分かっていただけるマーケティングを展開し、例えば日本で作ったコンテンツを欧州でも活用していくというような、入り交じったマーケティングで日本の良さを分かってもらうよう発信し、それがパナソニックブランドのクオリティーに直結し、海外でのEC販売に直結するというパスを作っていこうと考えています。
―24年の抱負をお聞かせください。
品田 パナソニックとして中期計画の最終年度ですし、それぞれの事業をどう強くするか取り組んできたこの2年の最終年度は一段目の土台を作る完成の年ですので、〝Why Panasonic?(パナソニックは何を目指しているのか)〟を追い求めてきたことが強固に出来上がる区切りの年になります。
業績的には、足元の景気悪化もあり結構コントラストがつきましたが、例えば家電は巣ごもり需要の反動とか、レジャー、外食へと消費行動に変化が起き、今は耐え時かなということを見越した上で、大きくはマーケットが成長しないものの、新しい需要を創造する商品は作ることができます。23年からやってきたような新しい需要を創造する商品をたくさん24年度も準備し、厳しい環境でもかなりアグレッシブに家電の領域ではやっていきます。
また、新販売スキームについても3年かかって社内外のコンセンサスが固まり、流通からも評価していただけるようになっておりますし、流通とのパートナーシップをさらに深めていきますし、需要自体が堅調ではない中で、われわれが仕込んできたことも含め積極的にやっていこうと思います。24年はこうしたチャレンジするパナソニックをお見せし、成長につなげたいと思っております。
(聞き手は電波新聞社代表取締役社長 平山勉)