2024.01.12 【放送/機器総合特集】24年 年頭所感 日本放送協会 稲葉延雄会長
稲葉 会長
信頼される情報・コンテンツを提供
多元性確保に貢献
昨年はロシアによるウクライナ侵攻の長期化や、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突など、国際秩序が混迷を深めた1年でした。また、デジタル化の負の側面でもあるフェイクニュースの拡散などによる社会の分断にも歯止めがかからず、民主主義はまさに危機にひんしていると言っても過言ではないと思います。こうした中で、信頼できる情報やコンテンツ、多角的な視点を提供し、インターネットも含めた情報空間の健全性を確保して民主主義の発達に資するという公共放送・NHKの役割はいっそう高まっていると受け止めています。
こうした社会的役割をしっかり果たしていくためNHKは、2024年度から3カ年の中期経営計画において、経営の基軸として「情報空間の参照点を提供すること」、つまりNHKが常に信頼される情報やコンテンツを提供すること、そして「信頼できる多元性確保へ貢献すること」、すなわち多様なメディアが共存する体制の維持という二つの軸を掲げることにしました。
このうち、多元性確保への貢献では、民間放送事業者との二元体制を今後もしっかりと維持し、NHKと民放の情報やコンテンツを全国あまねく安定してお届けするため、設備の維持・管理コストが課題となっている放送ネットワークの効率化に向けた取り組みに積極的に関与できればと考えています。
また、受信料の1割値下げに伴って大幅な減収となりますが、デジタル技術の活用や設備投資の削減などさまざまな工夫をすることで、コンテンツの質と量はしっかり確保しながら1000億円規模の事業支出の削減を行い、27年度に収支均衡を図りたいと思います。役員一同で力を合わせて経営のかじ取りを行ってまいります。
来年は、日本で放送が始まって100年を迎えます。関東大震災で根拠のない流言飛語が広がった反省も踏まえ、震災1年半後の1925年3月22日にNHKの前身の一つである東京放送局がラジオ放送を開始しました。その日の午前10時から放送した開局式で、初代総裁の後藤新平は放送について「之を精妙に活用することは今後の国家、今後の社会に対して新たなる重大価値を加へ民衆生活の枢機を握るものである」と、重要性を訴えたと記録されています。
その後、放送はさまざまな技術革新が進みましたが、100年前に後藤が指摘した通り、基本的な情報を共有し相互理解を促すといった放送の持つ社会的役割は今も全く変わっていないと思います。私は次の100年も、NHKが公平・公正で確かな情報や豊かで良い番組・コンテンツを間断なくお届けすることによって視聴者・国民のお役に立ち、ひいては日本や世界の民主主義の発達に貢献し続けていくことを強く願っています。