2024.01.18 【情報通信総合特集】2024市場/技術トレンド 事務機業界

エプソンは新型乾式オフィス製紙機「PaperLab」を秋に商品化する

富士フイルムBIはカーボンニュートラルオフィスを実現富士フイルムBIはカーボンニュートラルオフィスを実現

新たな成長の転換点を迎える
急速な技術革新対応など

 事務機業界は、新たな成長に向けての転換点を迎えている。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速や、ニューノーマルな働き方の定着、電子帳簿保存法(電帳法)の義務化、インボイス制度(適格請求書等保存方式)など、法改正も追い風になっている。生成AI(人工知能)といった急速な技術革新への対応や、環境対策も喫緊の大きなテーマだ。

 事務機業界は、グローバルにビジネス展開しており、海外売上比率が極めて高い。世界の経済環境や地政学的リスクなどの影響も大きい。2022年の事務機器の全世界出荷金額(ビジネス機械・情報システム産業協会〈JBMIA〉統計)は、半導体不足など部材調達の課題の解消やコロナ禍の影響脱却などから、前年比122.1%と大幅伸長した。23年は同98.6%の微減で推移し、24年も同100.6%の横ばいの見通しだ。市場規模は、2兆4000億円超で、出荷金額の約3分の1を占める複合機(複写機含む)の本格回復が待たれている。

 こうした中、事務機業界は、2050年カーボンニュートラル実現に向けた脱炭素の加速、サーキュラーエコノミーへの貢献、ニューノーマル時代に対応したDXビジネスなどを重点に取り組んできた。

 JBMIAでは、24年の戦略テーマとして「経済安全保障」「環境関連」「物流関連(2024年問題対応)」の三つのテーマを掲げ、それぞれプロジェクトチームを編成し、機動的かつ強力に活動する方針だ。

 複合機などは、日本メーカーが世界シェアの大半を占めるが、技術移転問題など経済安全保障上の問題は軽視できない。行政・外部団体との連携強化が必須だ。環境関連は、循環型社会の実現のため、グリーン化対策など課題が山積している。2024年問題への対応は、喫緊の課題だ。北海道などで開始された共同物流なども本格的な取り組みが期待されている。

 DXの加速や新しい働き方の定着、さらに改正電帳法の義務化(24年1月)、インボイス制度の導入(23年10月)の法改正など事務機業界を取り巻く環境は、大きく変化してきている。

 こうした環境の変化に適切かつ柔軟に対応するため、事務機各社ではソリューションサービス事業へのシフトなどビジネスモデル変革などを積極的に進めていく戦略だ。

 リコーは、23年度から25年度の第21次中期経営戦略をスタートさせた。「顧客起点のイノベーションでデジタルサービスの会社として成長を実現し、企業価値を向上させる」として、24年を「デジタルサービスの会社への変革を一層加速させる重要な年」と位置付ける。成長分野であるデジタルサービス領域へのシフトを進め、25年度には売上高のデジタルサービス領域の売上比率を、22年度の44%から60%超に高める計画だ。

 富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)も、「DX支援を通じて、ビジネスの中核をサービス&ソリューションに変えていく」戦略を打ち出しており、「ビジネスDX」を加速させ、27年度には、ビジネスソリューション事業を4000億円以上にする計画だ。

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は「2022-2025中期経営計画」で、サービス型事業モデルを確立し、保守・運用サービス/アウトソーシング領域を中心に、利益を伴ったITS(ITソリューション)事業の成長を実現し、年14%超の成長により、25年度にはITS事業領域の売上高を3000億円に持っていく。

 23年に創業150周年を迎えたコニカミノルタは「新たなスタートの年」と位置付け、次のステージに向け一歩を踏み出した。サステナビリティーを経営の中核に置き、イメージング技術を強みに「事業の選択と集中」で、成長回帰を図る。

 セイコーエプソンは「省・小・精」技術を前面に打ち出すとともに、生成AIの利活用、多様な価値に対応したダイバーシティー・エクイティー&インクルージョンの活動を継続強化していく方針だ。

 カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーに向けた取り組みも大きなテーマだ。各社では、循環型社会実現に向けた環境視点のビジネス戦略を本格化させている。主力の複合機やプリンターなどでライフサイクルや資源循環を見据えた製品化や、生産拠点の100%再生可能エネルギー化(再エネ化)、環境負荷を大幅に低減する施策など一段の活発化が予想される。

 セイコーエプソンは、より小型化・低コスト化し、天然由来の結合材や紙の繰り返し再生などで新たな製紙プロセスにより、環境性能の向上を図った新型乾式オフィス製紙機「PaperLab」を、今年の秋に商品化する。

 リコーは、A3フルカラー複合機の戦略モデルで「業界トップクラスの環境性能」を実現させた。本体樹脂総重量の約50%に再生プラスチックを使用するなど、ライフサイクル全体での環境負荷を大幅に削減しているほか、生産で使用する電力を再生可能エネルギーへ切り替えている。

 富士フイルムBIも、高い環境性能を誇る Super EA-Ecoトナーの製造ラインを増設したほか、同社の国内オフィス拠点では初めてカーボンニュートラルを実現させた。

 キヤノンは、カーボン・オフセットの導入が、技術開発や新たな環境付加価値の向上につながるとして取り組みを強化している。

 コニカミノルタは、50年の自社製品ライフサイクルでのCO₂排出量を従来の80%削減から100%削減に改め、「2050年ネットゼロ」を新たな目標に取り組む。

 東芝テックは、1台で「消す印刷」と「残す印刷」が可能なリサイクル/リユースに対応したハイブリッド複合機の普及に取り組んでいる。京セラドキュメントソリューションズは、24年3月以降に発売するプリンターや複合機のA4機の梱包(こんぽう)材を全て紙系梱包材に切り替えるほか、海外生産2拠点で100%再エネ化を実現している。