2024.01.17 【計測器総合特集】進化するモーター・インバーター計測技術 横河計測 最新技術でモーター評価を大幅に効率化

多彩なセンサーが接続可能なスコープコーダ「DL950」

 日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」(50年までに温室効果ガスの排出をゼロにする取り組み)の達成に向け、多くの産業分野で小型、軽量、高出力、高効率なモーターの開発競争が本格化している。その背景には、xEV、列車、ドローンなどの輸送機器から、空調・冷暖房設備、冷蔵・冷凍機器のほか、家電、産業機器に至るあらゆる業界でモーターが活用されており、電力消費全体に対してその占める割合が高いという実態がある。モーター・インバーターの電力変換効率の向上は、製品の性能アップとともに消費電力の削減に直結するため、脱炭素社会実現のカギとなっていると言っても過言ではない。

 PMモーターの制御方法

 このような機器に主に採用されるのが、内部に永久磁石(PM)を装着した三相PMモーターや、ブラシレスDCモーターと呼ばれるモーターである(図1)。

 三相PMモーターは、産業用途で一般的に使われる三相誘導モーターに比べ、体積の削減と高効率動作を実現できるが、一方で高効率動作の実現のために、回転数やトルクに応じた巻線電流の高精度な制御が求められる。その一例である電流ベクトル制御には、静止座標系の三相交流電流を回転座標系に変換する「dq変換」と呼ばれる処理が伴う。モータードライバーやECUなどの制御ユニット内部で行われるこの座標系変換には、複雑かつ高速な計算が必要となる。

PMモーター評価における課題

 この制御の複雑さゆえ、PMモーターの評価には三つの課題が存在する。

 一つ目は、実動作中のモーターパラメーターの測定に手間がかかることである。

 制御演算に用いるモーターパラメーターは設計値や簡易測定値を用いるのが一般的で、これを用いてトルクや速度の指令値を演算する。一方、実際のモーター動作状態では、制御フィードバック演算の遅れ、モーター内部磁気飽和などの要因により、設計値や簡易測定値と実測値が異なる。整合性を取るには、測定で得られた数百メガバイトを超えるモーター制御電圧電流波形と回転位置センサー波形の実測値からモーター回転位置の算出や、dq変換を行う必要があり、何十通りもある測定条件ごとに手動計算をするには膨大な手間がかかる。

 二つ目は、マイコン内部の制御値の把握が難しいことである。

 実動作中のモーターパラメーター把握には、このマイコン内部の制御値を把握することが一つの手である。高度なPMモーターの制御には応答の高速性が求められるため、専用のマイコンを使うことが一般的である。しかし、マイコン内の演算や制御値はブラックボックス化されているため、制御値の確認には専用の機器による特殊な接続を介してマイコン内部値を読み出したり、他のECUとマイコンの間のシリアルバス通信(CANなど)をデコードしたりする必要がある。

 三つ目は、モーターの評価項目が多いことである。

 先述の運転状態におけるパラメーター測定のほか、回転に起因する筐体(きょうたい)の振動や騒音、発熱など、あらゆる振る舞いの計測が求められる。必然的に試験のための測定器は増え、データが膨大になり、評価時間の増加を招くこととなる。

 モジュール型高速レコーダーによる課題解決

 これら三つの課題解決のカギとなるのが、YOKOGAWAの高速レコーダー「スコープコーダ」シリーズの最新機種である「DL950」(写真)と、同・モーターdq解析オプションである。

 スコープコーダは、オシロスコープの高速サンプリングとレコーダーの多チャネル・長時間記録の両方の特徴と、測定波形に対する解析機能を併せ持ったモジュール形式の高速データロガーである。DL950は最大200MS/秒のサンプリングレート、最大16ビットのADコンバーター、最長50日の記録、および最大160チャネルの多点測定機能を備えている。各入力チャネルが絶縁されており、グランドレベルの異なる複数の信号を入力できるため、現場での配線の簡単化に効果を発揮する。

 また今回、DL950のモーターdq解析機能として、新たに「/MT1オプション」を発売した。本機能では、自動かつリアルタイムのdq変換による電流Id、Iqや電圧Vd、Vq波形表示、1周期ごとの実効値/電力演算ができる(図2)。これにより従来の複雑な演算の手間を省くことができる。事前に巻線抵抗や磁石磁束を測っておくことで、Ld、Lqを求めることも可能だ。

 さらに、熱電対、加速度センサーやCAN信号解析などに対応した入力モジュールにより、モーター動作時の温度や振動、通信値も同時に計測できるため、モーターの総合評価を1台で完結できる。

 このDL950により、先述の三つの問題を同時に解決し、モーター・インバーターにおける開発業務の大幅な効率化が図れる。

ニーズの高度化、多様化に応える

 12ビットオシロスコープ「DLM5000HD」

 また、高効率・高出力なモーターの制御には、インバーター出力の波形品位評価も欠かせない。

 「DLM5000HD」シリーズは、YOKOGAWAオシロスコープの特徴であるコンパクトなボディーとロングメモリー、操作性の高さを継承した最新機種。既存機種の「DLM5000」シリーズの16倍となる12ビットの垂直軸分解能を持ち、より正確な波形観測が可能だ。また、特徴の一つであるロングメモリー機能においては、従来比2倍に相当する1Gサンプル点のメモリーを搭載しており、最大20万個の波形をヒストリ波形として保持できる。

 これらの特徴は、次世代インバーター装置の開発者にとって高速な信号の微細な変化を正確に観測できるメリットがあり、今まで捉えきれなかった予期しない問題を引き起こす現象を検出することを可能にする。

 さらに、従来機種同様に2台連結機能である「DLMsync」オプションも備え、DLM5000HDシリーズを2台連結した場合、三相モーターとインバーター評価での六つのスイッチング波形、ゲート制御信号および三相電流の全てを同時に測定することが可能だ(図3)。

 プレシジョンパワーアナライザ「WT5000」

 そしてDC入力からモーター出力までのトータルでの電力変換効率を1台で評価できるのが、プレシジョンパワーアナライザ「WT5000」だ。

 同機は測定精度で世界トップクラスのトータルプラスマイナス0.03%を誇る高精度電力測定器で、ユーザー側で脱着が可能な電力入力モジュールを最大七つ搭載する。

 モーター評価機能となる「/MTR1」「/MTR2」オプションを用いれば、電圧/電流/電力に加えて、モーターのトルク、エンコーダーからのA/B/Z相のパルス信号の入力と、モーターの回転速度とその方向、電気角の測定が可能となる(図4)。

 また、設定により最大4モーターの回転速度とトルクの同時測定も可能だ。モーターの高精度な効率測定とともに、電気角などのパラメーターを測定できることは、先述のPMモーター制御の検証に効力を発揮する。

 まとめ

 モーター評価の課題解決を中心に、当社の測定器によるソリューションを紹介した。今後さらにモーター・インバーター計測に求められるニーズが高度化かつ多様化していく中で、横河計測は高信頼の計測技術を通してより多くのニーズに応えるとともに、脱炭素社会の実現に貢献できるよう努めていく。

 〈筆者=横河計測〉