2024.02.01 【コンデンサー技術特集】リード形導電性高分子アルミ電解コンデンサーハイブリッドタイプとチップ形アルミ電解コンデンサーの技術動向 ルビコン

【写真1】PHVシリーズ外観

はじめに

 アルミ電解コンデンサーは、自動車、情報通信関連、産業機器および省エネ家電製品などの成長分野を中心に需要を伸ばしており、それに伴い技術的なニーズもますます高度化している。

 自動車分野では、昨今急速に進む電動化により、電子制御ユニット(ECU)の搭載数が増加し、1台に使用されるコンデンサーなどの電子部品の数が増加してきている。ECUに使用されるコンデンサーには、今まで以上に小型・高容量化、低ESR(等価直列抵抗)、高リプル電流への対応が強く求められている。

 情報通信分野では、第5世代移動通信システム(5G)の基地局が増加している。基地局の機器は過酷な設置環境を想定したメンテナンスフリー化や、防じん・防湿・防虫に対応した設計が施されており、それら機器に搭載される電子部品には、小型化、高温度化および長寿命化が求められている。

 当社はこれらの高度な技術要求に対応するため、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプ(以下、ハイブリッドタイプコンデンサー)と非固体アルミ電解コンデンサー(以下、電解コンデンサー)の高性能製品の拡充を進め、車載や産業機器分野などを中心に機器の高性能化に貢献してきた。本稿では、ハイブリッドタイプコンデンサーでは業界で唯一商品化しているリード形φ10×20Lサイズの製品と105度保証品として業界トップスペックを実現したチップ形アルミ電解コンデンサーの最新技術について紹介する。

リード形導電性高分子アルミ電解コンデンサーハイブリッドタイプ

 ハイブリッドタイプコンデンサーに期待されている性能は、高温度、低ESR、小型化、高リプル電流、低温域まで安定した特性が主たるものである。当社ではこのような要求に応えるべく、135度保証品でチップタイプのPHVシリーズ(写真1)とリード線タイプのPZHシリーズ(写真2)をラインアップし、このシリーズの特徴から車載機器や情報通信機器などを中心に採用が進んでいる。

【写真2】PZHシリーズ(リード品)外観(左からφ10×11L、φ10×15L、φ10×20L)

 高容量化、高リプル化、低ESR化の要求はハイブリッドタイプコンデンサーには常に求められている。これらを実現する主な手法は、電極箔(はく)の高容量化、導電性高分子や電解紙など材料の改良を進める手法とサイズを大きくする手法などがある。当社では、材料の改良の検討を進めるとともに大径化や長L化の検討も進めていた。

 現在商品化されている最大のφDサイズは10ミリメートルである。直径をこれ以上大きくすると電極箔の巻き取り長さが長くなり、金属抵抗の影響が増して導電性高分子の特徴を生かすことができず、期待される性能が得られない。

 また、製品長さ(L寸法)を長くした場合には、導電性高分子を均等にコンデンサー内部の高倍率箔のエッチング細部にまで充塡(じゅうてん)ができず、想定通りの性能が得られないという課題があった。L寸法を長くした場合の課題解決のため、性能を維持したまま導電性高分子の充塡性を改良し、アルミ電解コンデンサーの製造設備開発で長年培ってきた生産技術力を生かしたユニークな自社開発設備によって、この問題を解決し、業界で唯一コンデンサー長さ20ミリメートルL品の商品化に成功した。

 20L品の商品化によって、表1のような高容量、低ESR、高リプル電流化を実現した。図1は、サイズφ10×9L、φ10×20L品のESR周波数特性でサイズ拡大によりφ10×20品は実力的にも低ESR化となっていることが分かる。静電容量を見ると20L品は11L、9L品に対して2倍以上の高容量化となっており、高リプル電流で容量が必要とされる電動パワーステアリング(EPS)、オンボードチャージャー(OBC)などで検討と採用が進んでいる。

表1 φ10製品の特性比較
図1 φ10×9L品と20L品の常温ESR周波数特性

チップ形アルミ電解コンデンサーTYVシリーズ

 ルビコンでは、チップ形アルミ電解コンデンサーにおいて業界トップクラスの性能を実現したTRVシリーズ(φ8、φ10品:105度8000時間保証)、TNVシリーズ(105度5000時間保証、高容量、低ESR品)をラインアップしている。

 今回開発したTYVシリーズ(写真3)は、TRVシリーズの長寿命とTNVシリーズの高容量を併せ持ち、かつ低ESR特性を維持させることにより、105度保証品においては業界トップの性能を実現したものである。

【写真3】TYVシリーズ外観

 表2図2に示す通り、TYVシリーズは同サイズで比較すると従来品のTRVシリーズと同じ長寿命性能を維持したまま、2.1~3.3倍の高容量化を実現している。従来品のTRVシリーズではφ8×10.5Lを3並列使用で300μFの静電容量に対応してきたところを、TYVシリーズではφ8×10.5Lを1本のみで330μFの静電容量に対応でき、コンデンサー搭載数の削減によって機器の小型化と低価格化が可能となる。また、従来品のTNVシリーズよりも1.6倍の長寿命を実現しており、長期的な機器の出力電圧安定化が可能となる。

表2 TYVシリーズと従来品(TRV、TNVシリーズ)特性比較
図2 TYVシリーズと従来品(TRV、TNVシリーズ)比較

 TYVシリーズは、高信頼性の求められる車載機器、通信機器、太陽光・風力などのクリーンエネルギー機器、長時間稼働が想定される産業機器に最適なソリューションを提供する。

 TYVシリーズの高性能化、高信頼性を実現したポイントは高性能電解液、気密性に優れた高耐熱封止ゴム、高倍率電極箔の採用にある。

 アルミ電解コンデンサーは電解液が封止ゴムを介して外部へ蒸散することにより電気的特性が劣化していく。また、長期間高温度で使用された場合には電解液の特性劣化がコンデンサーの電気的特性に影響を与える。コンデンサーの長寿命化は気密性に優れた封止ゴムと高温度でも長期安定性に優れた電解液が必要となる。

 高温で長期間安定した性能を実現させた電解液は抵抗が高くなる傾向があるが、TYVシリーズの電解液は長寿命化だけでなく、抵抗の増加を最小限にとどめた新規配合の高性能電解液を採用した。TYVシリーズは、この高性能電解液と気密性に優れた高耐熱封止ゴムと組み合わせることで低抵抗かつ長寿命化を実現した。

 また、アルミ電解コンデンサーの静電容量は電極箔の表面積に比例するため、コンデンサーの高容量化は高度なエッチング処理により表面積の拡大(高倍率化)を行った電極箔を採用する必要がある。

 一般的に電極箔を高倍率化するほど箔の強度は低下する傾向にあり、巻回構造をとるアルミ電解コンデンサーにおいては電極箔の強度が必要であった。加えて面実装タイプは製品長さ(L寸法)が短く電極箔の幅が狭いため、高品質な製品を安定して生産するためには箔強度の影響が大きい。ルビコンでは製造設備を長年自社開発してきたノウハウによって製造条件を最適化し、製造ばらつきを抑えた工法を確立した。これにより強度が低く幅の狭い高倍率電極箔の採用が可能となり、105度保証品では業界最高の高性能かつ高信頼性を図ったTYVシリーズの量産化を可能としている。

 図3は、鉛フリー条件でのリフローを実施後、耐久性試験を行ったときの特性変化である。105度8000時間後も静電容量および損失角の正接(tanδ)は安定した特性を維持している。

図3 TYVシリーズの105℃耐久性試験データ

今後の展望

 自動車の電動化、次世代通信システムの普及、あらゆる製品の小型・軽量化などに伴い、ハイブリッドタイプコンデンサーの需要はさらなる拡大が期待され、高性能化の要求も継続していくものと予想される。当社では今後もこれら要求に応えるため、高容量化、高リプル電流化、長寿命化および高耐熱化製品の開発を進めていく計画である。一方で、アルミ電解コンデンサーは、ハイブリッドタイプと比べるとESRや許容リプル電流性能は及ばないものの、サイズバリエーションが豊富で、高容量化とコスト面では優位性がある。2030年の車載機器における使用比率予測では7対3でアルミ電解コンデンサーの方がまだ使用比率は高いという需要予測調査結果もあり、アルミ電解コンデンサーの需要は継続するものと考えられる。

 ルビコンでは、導電性高分子アルミ電解コンデンサーハイブリッドタイプとアルミ電解コンデンサー双方のメリットを生かした高性能化製品の拡充を進めていく予定である。
 〈ルビコン(株) 技術本部 技術部〉