2024.12.02 【「五感」を創る コンテンツ制作の今】<5> 「推しキャラ」目の前で楽しむ3D技術 等身大の投影も

VIVEトラッカーと3Dグラスを組み合わせた自作メガネをかける山浦CTO

放送機器展で展示したジオポータルを体験する来場者放送機器展で展示したジオポータルを体験する来場者

卓上に手のひらサイズのキャラクターを投影できる卓上に手のひらサイズのキャラクターを投影できる

 3D体験を日常に――。高額な仮想現実(VR)ゴーグルや3Dプロジェクターを使わず、立体的な「推しキャラ」を目の前で楽しめる。そんなシステムを手掛けるのが、2021年に設立したPortalgraph(ポータルグラフ、東京都杉並区)だ。

 3Dメガネを使ってリアルとバーチャルの両空間が同時に見えるプロジェクター技術「Portalgraph」を開発している。スクリーンやパソコン(PC)、3Dテレビに加え、テーブルの上に3Dモデルを投影できる。

 ポータルグラフは、1990年年代に米国イリノイ州シカゴ大学のコンピュータサイエンス学部の研究室(EVL)が開発した、四方の大型スクリーンに対応する高解像度3Dビデオとオーディオ環境「CAVE」がベース。

 3Dモニターやプロジェクターに加え、3Dメガネを使い、リアルタイムでユーザーの視点を計測するVRトラッカー「VIVEトラッカー」(HTC社)を使って映像を動かす。赤と青のレンズが印象的なアナグリフメガネにも対応し、3D非対応のPCや液晶モニターなどでも3D体験できる手軽さが特長だ。

 ポータルグラフ自体に出力サイズの制限はなく、VIVEトラッカーやウェブカメラなどのトラッキング方法によって制約を受ける。トラッキングソフトを実装すれば、制約はなくなる。

 ポータルグラフを使い、キャラクター操作などに重点を置いた「ペルソナポータル」や、グーグルアースのデータを使って卓上に立体的な地図を投影する「ジオポータル」としてサービス化している。

気軽に3D体験可能

 ポータルグラフ開発のきっかけは、20年にソニーが発売した空間再現ディスプレー。技術に感銘を受け、開発担当の山浦俊司CTO(最高技術責任者)がプロジェクターを使って3Dを楽しむポータルグラフを開発した。22年には3Dプロジェクターを使った卓上表示にも取り組み、今年に入ってからはアナグリフメガネを使ってPC画面上でも立体的に見えるようにシステムを改良した。

 山浦CTOは「明らかにアニメ調で現実には存在しないキャラクターが、リアルに見えるのが面白いと思った」と話す。ゴーグルの画面越しに現実を見るのではなく、現実空間に3D映像を映し出すポータルグラフの“臨場感”を強調する。

 3Dプロジェクターで、大画面に映像を映し出せることも特長の一つだ。山浦CTOは「3Dで見えると脳が物体と認識するため、1対1スケールの投影にこだわった」と力を込める。

 今後、サービスの本格的な販売に向けて、活用法を提示することで市場ニーズを把握したい考えだ。

 ジオポータルは、B2B(企業向け)を想定。高速道路のサービスエリアへの導入などを想定する。

 ペルソナポータルは、好きなキャラクターの投影はもちろん、コンピューターで製図するツール「CAD」への応用も考えている。山浦CTOは「元になっているCAVEを使ってどのように当社の特色を出すか、使い勝手を良くしたい」と話し、多くの人に気軽に3D映像を楽しんでもらいたいとする。

 複数人の同時利用はできないという課題もあるが、VRヘッドセットのように閉ざされてはいないため、体験者がどのような映像を見ているのかを周囲と共有できる。

 同社は、昨年9月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「東京ゲームショウ2023」のインディーゲームのピッチコンテストで、ポータルグラフを活用したドライブゲーム「タイニードライブ」が最高賞を獲得した。今年1月に米ラスベガスで開催されたエレクトロニクスショー「CES2024」にも出展。幕張メッセ(千葉市美浜区)で11月に開催された放送機器展「InterBEE2024」でも、ポータルグラフを使ったサービスの実演展示をした。

<連載おわり>