2024.12.04 タタとPSMCが新工場 注目集まるインドの半導体市場
メーク・イン・インディアによりインドの製造業は急成長
数十年にわたり、インドは世界的な半導体大国になるために大規模な努力を重ねてきた。そうした背景もあり、タタ・エレクトロニクス(以下、タタ)が明らかにした、インド初の半導体工場とチップ組み立て・テスト施設を建設するという動きは、エレクトロニクス製造の自立を目指すインドにとって画期的な動きである。
間もなく建設されるタタの半導体新工場は、台湾や中国がけん引する半導体製造競争に追い付こうとするインドの野心を実現する重要な場となるだろう。そのため、タタやそのほかの企業による投資は、南アジアの国であり世界第5位の経済大国であるインドが、ようやく勢いを取り戻しつつあるという雰囲気を醸し出している。
大規模なエコシステム投資
タタがグジャラート州ドレラに計画している新工場は、世界有数の半導体メーカーである台湾のPSMC(力晶積成電子製造)との共同によるもの。PSMCは宮城県で進めていたSBIホールディングスとの合弁による半導体工場の計画を断念し、今年9月に提携を解消したことでも話題となった。アーメダバード市近郊という戦略的な立地に、両社は最大9100億ルピー(約110億ドル)の投資を投入する可能性がある。さらに、インド初となるAI(人工知能)などを導入した最先端の工場となる見込みで、2万人以上の直接・間接的な技能職を生み出す可能性がある。
新工場では、電源管理IC、ディスプレー・ドライバー、マイクロコントローラー(MCU)、高性能コンピューティング・ロジックなどのアプリケーション向けチップを製造する計画。これにより、自動車、コンピューター、データストレージ、ワイヤレス通信、AIなど、さまざまな市場の需要増に対応する。生産能力は月産5万枚を予定しており、これが実現すればインドは世界の半導体産業における重要なサプライチェーンの一翼を担うこととなる。
新工場の建設とともにタタは、アッサム州ジャギロードに最新鋭の半導体組み立て・テスト(OSAT)施設を建設する。この施設は2700億ルピー(約32億ドル)の投資で建設され、同地域で2万7000人以上の直接・間接雇用を創出する可能性がある。
このOSAT施設は、ワイヤボンディング、フリップチップ、統合システムパッケージング(ISP)など、三つの技術に焦点を当てる予定である。さらに、同社は将来的に高度なパッケージング技術へのロードマップを拡大する。これらの技術は、自動車(特に電気自動車)、通信、ネットワークインフラなど、インドの主要アプリケーションにとって極めて重要。提案されている施設は、AI、産業用、家電製品などの主要な市場セグメントで高まる世界的な需要に対応する。
高成長を続けるインドの製造業
インドの電子機器製造業はここ数年、さまざまな取り組みや改革によって大きな変貌を遂げてきた。インド政府はエレクトロニクス製造を促進するためにいくつかのイニシアチブをとっている。2014年に開始された政府の 「Make in India 」は、インドを世界の設計・製造のハブにすることを目的とし、国内の製造業を増やし、輸入とサービス部門への依存を減らすことにある。
それらの後押しを受け、電子機器製造業は高成長を続けている。具体的には、電子製品の国内生産は、2017〜18年の3.88兆ルピー(600億ドル)から2022〜23年には8.25兆ルピー(1020億ドル)へと大幅に増加。年平均成長率(CAGR)16.28%で成長している。成長の大きな要因は、大規模な国内市場、熟練した人材の確保、低コストの労働力である。輸出も増えており、FY17〜18からFY22〜23までの輸入のCAGRは12.7%、FY17〜18からFY22〜23までの輸出のCAGRは35.7%であった。
インドの製造業は急成長を遂げ、輸出も拡大しているものの、現在のエコシステムの下では、今後も大きな成長を続けられるかは不透明だ。インドがハイテク分野で設計・製造(ESDM)の世界的ハブになるためには、国際競争に打ち勝つための能力拡大を奨励・促進し、半導体を含む中核部品を開発する必要がある。
インドは、半導体デバイスを製造するウエハーファブを除けば、電子部品や基板実装に関わるエコシステムにおいて存在感を増している。インドが半導体のウエハーファブを持つことで、施設が必要とする排水処理や産業ガスなどの市場が生まれる。次に、組み立て、テスト、マーキング、パッケージング(ATMP)などに関わる企業の集積が進めば、半導体製造装置を供給し保守・メンテナンスを行うサービス企業の市場が形成される。
今回、半導体製造のサプライチェーンが完成すれば、さらに大きなエコシステムのための市場が生み出されることになる。プリント配線板、コネクター、ワイヤハーネス、サブアッセンブリーなどのメーカーが、今まで以上にインドに進出する可能性が高まる。こうして、コンピューター、携帯電話、セットトップボックスなどの最終製品を製造する企業が、インドに生産拠点を構え、成長することになる。
このような背景もあり、タタによる今回の投資は、インドのエコシステムに拍車をかける。半導体のみならず、電子部品メーカーや完成品メーカーを引き込むことで、サプライチェーンをさらに太くするだろう。
インド政府による投資案件承認はさらに拡大
タタ以外にも、政府はいくつかの投資案件を承認している。これには、マイクロン・テクノロジ ー社が2023年に約2300億ルピーを投資してインドにATMP施設を設立する提案も含まれる。インド政府はまた、2024年2月にCG Power and Industrial Solutions Limitedが約760億ルピーを投じてインドにOSAT施設を設立する提案を承認した。この施設はルネサス エレクトロニクスとの合弁事業である。
さらに、政府は11の新興企業や企業、25の半導体設計企業からの提案も承認した。今後も大きな成長が期待されるインド。半導体関連での動きも活発であり、今後も目が離せない。