2025.01.27 大日本印刷 最先端半導体向けフォトマスク事業戦略
フォトマスク事業について語る中西執行役員
半導体製造には多くの工程があり、その一つ一つの工程を経て、半導体デバイスが完成する。大きくはシリコンなどを原材料とするウエハー表面に膜を形成し、回路を描画する前工程とウエハーからチップに切り出し、電極形成、パッケージングを行い半導体デバイスの形にする後工程に分けられる。前工程において最も重要となるのが、回路をウエハーに書き込む露光工程。露光工程では、露光装置を用い、「フォトマスク」と呼ばれる回路パターンを転写するための原版とレンズを通してウエハーに光を照射し、回路を描画していく。この回路は、線幅が狭ければ狭いほど、データ処理速度が速くなり、半導体デバイスの性能を左右する。現在、最先端デバイスでは、3ナノメートル品が量産されており、さらなる微細化に向けた開発が進められている。
このような超微細な線幅で回路形成を行うため、露光装置も進化している。最先端の半導体デバイスには、波長が13.5ナノメートルのEUV(極端紫外線)を用いたEUV露光装置が使用される。そして、このEUV露光装置を用いた露光工程で不可欠なのが、回路パターンの原版であるEUVフォトマスクだ。従来の露光工程で使用していた光フォトマスクよりも微細で複雑なパターン構造を実現できる高い技術力が必要となる。
印刷技術をベースにフォトマスクメーカーとして躍進
大日本印刷(DNP)は、長年培ってきた印刷技術をベースにフォトマスクの設計・製造・販売を行っている。28ナノメートル以上のレガシー半導体向けのみならず、EUVフォトマスクも取りそろえ、最先端デバイスの製造に貢献。注力事業領域である半導体関連事業の中でも、基幹製品として力を入れている。
フォトマスク市場は半導体メーカーの内製を対象とした「内製市場」と内製部門を持たない半導体メーカーを対象とした「外販市場」に大別される。DNPがターゲットとするのは外販市場。2000年代以降には微細化競争が激化し、主要半導体メーカーやファウンドリーが先端プロセスで使用するフォトマスクを内製する動きが加速。同社は先端プロセス向けからレガシー向けのフォトマスクを主力に取り組んできた時期もあったものの、最先端向けの開発は継続していた。
ラピダス設立を契機に再度、最先端領域へ
潮目が変わり始めたのは、3年前。22年8月にラピダスが設立され、国内でも最先端の半導体デバイスを製造する動きが出始めた。そこから、DNPは方針を転換し、最先端デバイス向けフォトマスクも含め全方位でフォトマスク事業に力を入れ始めた。
フォトマスク事業を統括する中西稔執行役員は「ラピダス設立が契機となり、改めて全方位で取り組むことになった。そのうちに、半導体メーカー側でも最先端デバイスの研究開発にリソースを割く傾向が強まっており、従来内製を行っていた非先端分野のフォトマスクを外部から調達する動きも出始めた。当社はEUVフォトマスクをはじめとする最先端向けに注力するとともに、外販市場に加え内製市場への提案にも取り組み、ビジネス拡大を図る」と話す。
同社は24年3月、ラピダスが参画している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に再委託先として参画。2ナノメートル世代のEUVフォトマスク製造プロセスの開発に取り組んできた。24年12月には2ナノメートル世代以降のロジック半導体フォトマスクに要求される微細なパターンの解像に成功。2ナノメートルプロセスでの最先端デバイス製造実現に向け、着実に開発を進めている。
EUVとは異なるアプローチとしてナノインプリントも
同社ではフォトマスクとともに、ナノインプリントの開発にも取り組んでいる。ナノインプリントは、基板上に塗布した樹脂上に微細な凹凸パターンを形成した版(テンプレート)を押し当て回路を形成する技術。同社はテンプレートを製造している。ナノインプリントは従来の露光技術と比べ、消費電力を10分の1に抑えられるメリットはあるものの、ウエハーとテンプレートが直接接触するためパーティクル汚染など課題もある。同社は09年からキヤノンなどと共同開発に取り組んでおり、23年にはキヤノンがナノインプリント装置を開発、販売を開始した。
DNPは莫大な投資資金が必要となるEUVプロセスとは違うアプローチを求める企業から、ナノインプリントのニーズも生まれると見込み、提案を行う。中西執行役員は「従来の光マスク領域とEUVマスク領域の間には、ナノインプリントに置き換えられる領域はあると思う。既にナノインプリントの提案を開始しており、引き合いも出始めた。フォトマスク事業とともに提案を加速し、ビジネス拡大につなげる」と話す。
ボリュームゾーン向けも強化
EUVフォトマスクを中心とした最先端領域への取り組みに加え、ボリュームゾーンへの対応も強化する。23~25年度には200億円の投資も行う計画。老朽化した設備を更新するなどし、25年におけるボリュームゾーン向けの生産能力は22年比で20%増となる見通しだ。最先端領域向けでは、マルチビーム描画装置やEUVマスク検査装置などの増設投資を行う。
中西執行役員は「半導体市場は今後も着実に成長する。当社も半導体市場の成長率を上回る成長を目指している。EUVをはじめとする最先端領域とボリュームゾーン、双方で実績を伸ばし、さらなる成長につなげていく。海外勢との競争も激しくなる中、当社の強みである全方位への提案力を生かし、取り組んでいく。顧客のフォトマスクに関わる困り事は任せてもらえるよう、プラスアルファの価値提案に注力する」と話す。