2025.02.28 AI普及で電力消費急増、政府がエネ・通信インフラの一体整備へ検討
データセンターで稼働中のAI計算基盤(提供=ソフトバンク)
膨大な計算が必要なAI(人工知能)の利用拡大を背景にデータセンター(DC)で消費する電力が急増する中、政府が電力系統と通信基盤の整備を一体的に進める方針を打ち出した。「ワット・ビット連携」と呼ばれる取り組みで、今夏を視野に方向性の具体化を目指す。同様の課題に直面する欧米でも両インフラを一体整備する機運が高まっており、今後の展開に注目が集まりそうだ。
今回の方針は、石破茂首相が20日のデジタル行財政改革会議で表明したもので、これまで個別に進めていた電力と通信の両インフラを効果的に連携させることを狙う。村上誠一郎総務相と武藤容治経済産業相はその取り組みの方向性に触れ、6月をめどに具体化するよう指示。石破首相は「令和の日本列島改造に向けて、AIとデータセンターを結ぶ情報通信ネットワークを、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える『新時代のインフラ』として整備したい」と強調した。
ワット・ビット連携は、GXの推進に向けて18日に閣議決定した「GX2040ビジョン」に盛り込まれた取り組み。ビジョンには、この連携策で「AI活用を通したDXを加速させ、成長と脱炭素の同時実現を目指すGXの効果を最大化させていく」と明記された。ビジョン策定に先立ち首相官邸で開かれた有識者会議「GX2040リーダーズパネル」で、東京電力ホールディングス傘下で送配電会社の東京電力パワーグリッドが提唱した。
経産省によると、DCを原子力や再生可能エネルギーなどの脱炭素電源の近くに整備し、送電線に比べて安価とされる光ファイバーケーブルで効率的に情報を伝送するという仕組みを想定。将来的には、光技術を活用して次世代情報通信網を構築するNTT主導の「IOWN(アイオン)構想」との連携も視野に入れているという。連携策の具体化に向けては「まずは論点を整理したい」(経産省GXグループ)としており、業界の垣根を越えた形で民間を巻き込みながら検討を進めることになりそうだ。
DC立地の地方分散が課題に
政府が両インフラの一体整備を促す背景には、DCで消費する電力量が増大する傾向がある。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2026年にDCの電力消費量が世界全体で22年と比べて2倍以上の1000TWh(テラワット時)に膨れ上がる見通しだ。これは日本の総消費電力量に匹敵する規模で、電力を確保する対応が各国共通の重要課題として突きつけられている。
こうした中で日本には、GXやDXに欠かせない国内DCの8割強が東京圏や大阪圏に集中しているという課題に直面している。こうした特定地域で大規模な災害が発生した場合、電力網や通信網が断絶してDCの機能が損なわれる恐れがあり、国土強靭化という観点から立地場所の分散が求められている。政府は地方創生や脱炭素化につながる取り組みとしても、DCの分散化を促したい考えだ。
海外に目を向けると、米国のトランプ大統領が1月、AIインフラ整備のための合弁会社「スターゲート」を新設すると表明した。今後4年間で5000億ドル(約75兆円)の巨費を投入する計画で、初期出資者としてソフトバンクグループや米オープンAIなどが名を連ねた。仏政府もAI関連分野に積極投資する姿勢を示しており、AIの利用拡大が進む新時代を支えるインフラの建設ラッシュが世界規模で活発化。増大する電力需要を賄う発電設備をDCに併設する動きも各地で広がりそうだ。