2025.03.28 ディープテックで起業促進へ 東大と三菱商事がプログラム新設
共同記者会見で握手を交わす東京大学の藤井総長(左)と三菱商事の中西社長=28日、東京都文京区
東京大学は28日、三菱商事から6億円の寄付を受け、同大発スタートアップの創出を加速させると発表した。両者が協力して有望技術の発掘から事業化までを一気通貫で支援するプログラムを立ち上げ、ITや半導体からバイオにいたる多彩なディープテック(先端技術)をターゲットに起業を促すことを目指す。
今回のプログラムは、東大産学協創推進本部が主体となって三菱商事の支援で新設する「東京大学・三菱商事 Tech Incubation Palette」。実施期間は2025年度から28年度までの予定。同社からの寄付はプログラム運営費に充てる。
こうした仕組みを通じて、潜在する有望な技術シーズを探索。掘り起こしたシーズと起業家をマッチングした後、起業準備に移行。最終的には、グローバルに戦えるスタートアップの創出につなげることを狙う。
具体的には、技術の探索・支援チームを設けて、社会実装に向けた仮設立案や市場調査、概念実証(PoC)支援などにとどまらず、学内外との連携を促したりベンチャーキャピタル(VC)を紹介したりする。三菱商事からは寄付金だけでなく、培った産業分野の知見やグローバルな企業ネットワークなども提供するという。
宇宙からITや半導体まで視野
対象となる分野は、社会に変革をもたらす可能性を秘めるディープテック。視野に入れる領域は、宇宙やロボティクスから環境・エネルギーや量子コンピューターまでと多岐にわたる。東大はこれまでも起業支援に力を入れてきたが、民間企業の強みを生かして全学横断で技術発掘から起業支援まで手掛けるプログラムは、東大としては初めてという。
東大が新たな産学連携に踏み込む背景には、研究と事業化の距離を縮めて有望シーズの社会実装への流れをスムーズにしたいという狙いがある。東大関連の起業数は2024年3月末時点で累計577社。こうした実績を土台に、今後10年で年間300社のスタートアップを創出する目標を掲げている。東大は今回の連携で、こうした取り組みに弾みをつけたい考えだ。
東京都内で同日に開かれた記者会見で東大の藤井輝夫総長は、「産業界と同じ目線で力を合わせ、技術の可能性を最大限に引き出していきたい」と強調。三菱商事の中西勝也社長は「東大の最先端技術がグローバルな社会課題の解決に貢献できるよう、全力で後押ししていきたい」と意欲を示した。
ディープテックは、自国の経済安全保障や産業競争力に直結するだけに、同分野をめぐる覇権争いは世界規模で激化。成長への期待からベンチャー投資も活発化する傾向にある。それだけに同分野で海外勢から水をさらにあけられないよう、産学が密接に連携し大学発シーズをディープテック市場の攻略に生かす意義は大きい。そうした観点からも両者の展開に注目が集まりそうだ。