2025.08.28 ヘルスケア特化の実行基盤構築、AIエージェントで国内初 富士通がエヌビディアと連携
AIエージェント実行基盤のイメージデモ
富士通は27日、医療機関の経営効率化と安定的な医療サービスの提供、患者サービスの質向上のために、ヘルスケア向けAI(人工知能)エージェント実行基盤を構築したと発表した。米半導体大手エヌビディアの先端テクノロジーを活用し、医療分野特有の複雑で属人的な業務オペレーションの改善を支援する。ヘルスケア特化型のAIエージェント基盤の提供は国内初という。
厚生労働省の統計によると、2022年度の国民医療費は約46兆円に上り、そのほぼ半分が人件費に充てられ、人件費の約16%が事務作業に費やされている。特に勤務医の時間外勤務は依然として多く、約4割の病院で過重労働が問題視されている中、今回の取り組みは、間接業務をAIエージェントに置き換え、医療従事者の負担軽減を図る狙いがある。
富士通は、データ構造化や相互運用監視などの多様なAIエージェントを統合できる実行環境を「Healthy Living Platform」上に構築。そこにヘルスケア特化型の多様なAIエージェントを組み込み、実行基盤を立ち上げた。
実行基盤では「受付エージェント」「問診エージェント」「診療科分類エージェント」など複数の業務特化型AIエージェントが、司令塔のオーケストレーターによって自律的に連携・協働し、受付や問診、文書作成などの間接業務をAIが代替する。医療従事者は診療や患者ケアに専念でき、医療サービスの質向上が期待される。
医療現場での活用ケースとして、患者はモニター上のAIエージェントを通じて問診を受け、回答に応じて受付や問診、診療科分類の各エージェントが連携し、適切な診療科へ案内する流れ。
ヘルシーリビング事業部の荒木達樹事業部長は「医療従事者に代わって特定の目標達成のために状況を正しく認識し、必要なタスクを自律的にこなす代理人、AIエージェントが不可欠である」と指摘。将来的には、病院内にとどまらず地域の広範囲にわたる医療提供体制の最適化を目指す。
技術面で協力するエヌビディアは、「NVIDIA NIM マイクロサービス」や「NVIDIA Blueprints」といったAIエージェント基盤技術を展開する。同社日本法人の井﨑武士エンタープライズ事業本部長は、医療分野の「ソブリンAI(主権AI)」の重要性を強調。今回は富士通と連携して、日本の文化や医療業務の特性など固有の要件に最適化したAIモデルを構築する。井﨑氏は「AIの進化とエージェントの連携が産業や社会を変革し、いずれは物理的行動を伴うフィジカルAIとも融合させたい」と語った。
医療現場からは歓迎の声が上がる。心臓超音波検査や冠動脈造影検査のリポート作成補助AIの開発にも取り組む東京大学医学部付属病院循環器内科の小寺聡特任講師は「AIエージェントが問診や文書作成を担当することで医師が患者に専念でき、患者の待ち時間も短縮される」と期待する。一方で多数の個人情報が蓄積された医療データのセキュリティーや導入時のワークフロー設計などの課題もあり、現場に浸透するには操作性やインターフェース設計も重要だと訴えた。
富士通は、25年中に医療機関やパートナーと協力してAIエージェント実行基盤の有効性を検証し、ヘルスケア特化型エージェントの開発を進め、事業化を加速する。