2025.09.08 特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」28日まで、日本科学未来館(東京都江東区)

月面有人月面探査車「有人与圧ローバー」の模型を眺める親子

「H3ロケット」の搭載物を守るフェアリング「H3ロケット」の搭載物を守るフェアリング

ブリヂストンが開発するオール金属のタイヤブリヂストンが開発するオール金属のタイヤ

有人月探査 日本のものづくり企業に存在感

部品から材料、スタートアップまで

 日本科学未来館(東京都江東区)が7月12日~9月28日の会期で開催している特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか To the Moon and Beyond」は、お盆の8月15日も含め子ども連れの家族でにぎわった。会場で際立ったのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)やロケット開発を手掛けてきた重工業メーカーはもちろん、幅広い製造業も宇宙開発の主役に押し出す姿勢。新興民間宇宙産業、いわゆるニュースペースにも紹介枠を設けた。

 今回の特別展は1961~72年のアポロ計画から半世紀ぶりとなる有人月面探査を目指すアルテミス計画で実際に使う技術の数々が大きな目玉。初公開となった有人月面探査車「有人与圧ローバー」の実物大模型はトヨタ自動車のロゴも正面に配した展示。宇宙飛行士が乗り込み宇宙服を着用せず車内で1年のうち約1カ月生活でき、10年で1万キロメートル走れる能力を備え広範な探査が可能な設計を目指す。

 隣にブリヂストンが研究開発する有人与圧ローバーのタイヤもあった。高真空かつ環境の過酷さから、通常のゴムタイヤのように空気で荷重を支えるのが困難な月面で役立つようオール金属製でありながら、柔軟に変形するのが特徴だ。

 「H3ロケット」に搭載する衛星などを飛行による風圧や熱から守る覆いフェアリングの実物大展示は、大きさだけでなく打ち上げ時の空気抵抗や振動から搭載物を守るため軽量かつ、高強度の複合材料を使うことも取り上げた。

 祖父に連れられた都内の小学4年生の男の子は「ローバーは面白かったがロケットはもっと面白かった」とし、「ひらがなや漢字など文字について調べることに興味があるが宇宙に関する仕事にも関心を持った」と話した。小学校で「星の学習」として宇宙に関する授業が始まったことも訪れたきっかけという。

 大阪府から両親と来た別の小学4年生の男の子は「月や火星で人が暮らすという展示に興味があった」とし、「サッカーが好きで宇宙に関する仕事に就くつもりはないが、誰もが宇宙に行けるようになれば行きたい」と話した。

 ニュースペースに関してはPDエアロスペース(名古屋市緑区)、インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)、スペースワン(東京都港区)、SPACE WALKER(スペースウォーカー、福島県南相馬市)、将来宇宙輸送システム(ISC、東京都中央区)などを紹介。年間20機以上の高頻度打ち上げを目指すスペースワンの固体燃料ロケット「カイロスロケット」や、小型人工衛星に特化し競争力ある価格で、注文に応じた形での打ち上げを目指すインターステラテクノロジズの液体燃料ロケット「ZERO(ゼロ)」の模型も会場に並んだ。

 現状の課題にロケット開発の加速などと並んで、ロケット基幹部品や機器調達の供給網強靭化(きょうじんか)などを訴えており、日本の製造業にとり、貢献の余地が大きいことをうかがわせる。都内から訪れた20代の男女2人組は、自身は宇宙関連の仕事に就いてはいないが、面白い取り組みと感じていると展示について語った。

 主催者の一つ東京新聞文化事業部の会場担当者は「夏休みは家族連れ中心に多くの人が訪れ、SNSなどでも発信していた」と振り返る。なお民間のビジネス部分に脚光を当てた展示も特色とし、家族連れに限らず幅広い層に足を運んでほしいと語り、9月12日の「宇宙の日」や連休も視野に今後の来場にも期待を示した。