2026.04.25 AI×専門指導の「スピーチリンク」で失語症のリハビリ支援、開発者・石渡氏に迫る

「Speech Link」の生みの親である石渡氏

「Speech Link」の画面を操作する様子「Speech Link」の画面を操作する様子

 4月25日は、言葉で困る人への理解を深める日本失語症協議会制定の「失語症の日」だ。この日、人工知能(AI)を活用し言語訓練を支えるリハビリテーションのプラットフォーム「Speech Link(スピーチリンク)」の提供が始まった。手がけるのは、言語リハビリを支援するスピーチリンク(東京都新宿区)と、オンラインでリハビリ支援を行うことばの天使(大阪市)だ。スピーチリンクでプロジェクトマネージャーを務める石渡達也氏に、プラットフォームに込めた思いを聞いた。

 今回のプラットフォームを開発したのは石渡氏。自身も20年9月に脳出血を発症し、右半身麻痺と失語症を経験した。「使用者にはスピーチリンクでリハビリして早く社会復帰してほしい」と石渡氏。当事者の目線で開発したサービスには、リハビリを続けられる仕組みと孤立させない工夫を盛り込んだ。2026年度内を目標に個人ユーザー500人への提供と、5医療機関への導入を目指す。

 具体的には、AIと言語訓練を担う専門職「言語聴覚士」による指導を組み合わせた点が特徴だ。主な機能として、ベータ版から引き継いだ「ことばトーク」に加えて、新たに「ことば探し」「ことば並べ」「ことば聞き取り」を搭載した。言語聴覚士が行う訓練をAIが駆動する練習機能で補完することで、日常的に十分な訓練量を確保できるようにした。

 石渡氏はこれまで、IT系企業でマーケティングや事業開発など、言葉を武器にする仕事に携わってきた。アプリ開発は初めての挑戦だったという。プラットフォーム開発のきっかけは、生成AIの登場だった。「スピーチリンクのようなアプリがあったら、きっと喜ばれる。AIがあれば実現できるのではないかと思った」と振り返る。

使用者目線で見直し

 25年7月にアプリのベータ版を配信したが、使用者からの反応は厳しかった。マニュアルを読まずに使う人が多く、「どう使えばいいか分からない」といった声が相次いだ。石渡氏は当時を振り返り、「使用者とのコミュニケーションに課題があった」と話す。開発メンバーの中には落ち込む人もいたという。

 しかし、この経験はアプリの方向性を見直す転機となった。使用者はマニュアルを見ないという前提で開発を進め、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を大幅に刷新。ログイン後に次の行動で迷わせないよう「今日のチャレンジメニュー」を設け、チャレンジが完了すると「今日のおすすめ」が表示されるようにした。自然な動線に沿って操作することで、新たな訓練に気づけるよう工夫した。

 さらに、練習メニューを達成すると獲得できるXP(経験値)や連続ログイン日数の表示など、継続利用を促す仕組みも取り入れた。利用者同士の存在が分かるコミュニティー機能も搭載。「遠方でも同じように頑張っている人の存在を励みにしてほしい」という思いを込めた。

ツールを右手の代わりに

 石渡氏自身も、開発チームに意思を伝える際のコミュニケーション方法を工夫してきた。「倒れる前は言葉で『これをこうして』と指示していたが、失語症になってからは、できるだけモックアップ(模型)を使って意見を伝えるようになった」と話す。言葉による抽象的な説明ではなく、パワーポイントのようなビジュアルを用いたやり取りを心掛けるようにした。

 背景には、生成AIの普及がある。アイデアを形にしやすくなったことで、ビジュアルベースのコミュニケーションが現実的な選択肢となった。石渡氏はAIを「右手の代わりのような存在」と表現し、「AIのおかげで、倒れる前以上の仕事量をこなせている」と語る。

 失語症の国内患者数は約50万人と推定され、社会全体での理解と支援が欠かせない。失語症を経験した石渡氏だが、悲観はしていない。「これからももっとポジティブに生きていきたい」。前を向いて歩み続けている。