2020.11.20 【5Gがくる】<20>「ローカル5G」でないとできないこと ②

 桶狭間の戦いで、なぜ織田信長が「本陣切込み」で勝利したのか-。諸説あるが、一説では今川義元の陣が分散されており、本陣が手薄であったらしい。その本陣一点に、信長は最強の本隊を猛スピードで集中させたわけだ。このように、スピードを争うケースでは「分散」より「集中」型のシステムにした方が、功を奏する場合がある。

 IoT×AI検品

 前回、自己の土地や建物において、電波環境に関係なく品質の高いユーザー独自のサービスを構築する際には、「ローカル5G」を使う方が無難であると述べた。しかしユースケースによってはローカル5Gでなければ困るケースもある。

 例えば、製造業などの工場における「IoT×AI自動検品システム」がその一つだ。IoT×AIとは、様々なモノをセンサーとネットワークでつなぐIoT(Internet of Things=モノのインターネット)技術で集めたデータを、AI(人工知能)を活用して解析する仕組みを指す。

 一般的な検品は、工作機械によって製造された製品を人間が目視検査で正常/異常を判断し仕分ける製造ラインの最終工程だ。この目視による判断をAIに、仕分け作業をロボットアームにやらせるのがIoT×AI自動検品システムになる。

 このシステムは、ベルトコンベヤで流れてくる製品の一つ一つを画像センサー(カメラ)で撮影し、そのデータを広域ネットワークでクラウドへ転送する。次に、クラウド上にあるAIが送られてきた製品画像を分析し、正常/異常を判断して工場へ知らせる。最後に、ロボットアームはAIが異常だと判断した製品をつかんで外へ出すという流れだ。

 ところが、IoTが現場に、AIがクラウドに分散しているシステム構成では、広域ネットワークの通信速度が低下した場合、データをAIに与えるタイミングが遅れ、AIの判断も遅れてしまう。その結果、ロボットアームは異常な製品をつかみ損ねてしまう。広域ネットワークの障害時には、製造ラインに多大な影響を与えかねない。

5G×IoT×自動検品システム

 自動運転を支援するAIシステムではさらに深刻だ。もし、交差点で自動運転の車の前に突然車が現れたら、クラウドAIによる衝突の予測と回避判断では間に合わないだろう。同様な状況は建設現場や災害現場、製造現場における運搬機の自動走行でも起こり得る。 

「エッジAI」作る

 そこで、工場内にローカル5GによるURLLC(超高信頼・低遅延)のプライベートネットワーク(私設網)を構築し、AIを現場の末端(エッジ)に配置する、いわゆるエッジコンピューティングを活用した「エッジAI」をつくればどうだろうか。

 この5GによってIoTとAIを現場に集中させる、新たな「5G×IoT×AI」システムの構成においては、内部に閉じたAI活用ができるため、高信頼性と低遅延の品質を損なうことなく、ロボットが存分に活躍できると考えられる。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉