2021.07.29 【半導体/エレ商社特集】半導体世界市場 好調続く21年に5000億ドル突破
世界の半導体市場は好調が続く。新型コロナウイルス禍で加速しているデジタル化を背景にCPU、GPU、メモリー、アナログ半導体など幅広い分野で需要が拡大。米半導体工業会(SIA)によれば単月の世界売上高は2020年2月以降、21年5月まで16カ月連続で前年実績を上回った。
人工知能(AI)や5G(第5世代移動通信規格)の本格普及、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)、カーボンニュートラル(炭素中立)に向けた取り組みが加速する中、半導体の重要性はさらに高まり、市場はさらなる成長が続くとの見通しを業界関係者、アナリストらは一様に示す。
主要半導体企業が加盟する世界的統計機関、WSTS(世界半導体市場統計)は、6月に発表した春季半導体市場予測で21年市場規模を前年比19.7%増の5272億ドル(約58兆円)と予想した。
昨年12月時点では前年比11.2%の成長を見込んでいたが、想定を上回る需要の伸びや、コロナのワクチン接種が世界的に進み、経済活動の正常化が促されることを見込んで大幅に上方修正した。市場が5000億ドルを突破するのはこれが初。22年はさらに同8.8%増加し5734億ドルと過去最高を更新する見通しだ。
WSTSのみならず、調査会社も21年の市場予測を見直している。米ICインサイツは、年初の前年比12%増との予想を3月に19%増に引き上げ、6月末にはさらに24%に上方修正した。DRAMやNAND型フラッシュメモリーのビット当たりの単価上昇が続いているほか、ロジックやアナログ半導体の多くの製品カテゴリーで、当初想定した以上の成長が見込まれるためとしている。
半導体不足深刻化
コロナ禍での巣ごもり生活に伴うパソコン(PC)やスマートフォン、デジタル家電向けの需要に加え、一足先にコロナの抑え込みに成功した中国での自動車市場の急回復、さらにハイパースケーラーによるデータセンター投資回復など、現在の市場をけん引する要因は重層的だ。
メーカー側は設備フル稼働で対応するが、供給が追い付かない。また、今年に入り自然災害や停電、火災などのトラブルが追い打ちをかけ半導体不足が深刻化。当初は自動車業界が打撃を受け減産に追い込まれるなど厳しい状況が続いたが、現在は多方面に影響が広がっている。PC大手、台湾のエイサーは半導体不足の影響は22年前半まで続くと予想。米HPも年末までPCやプリンターの出荷に影響が出ると見ている。
半導体企業は設備投資を増額して生産能力拡大を急ぐ。国際半導体製造装置・材料協会(SEMI)によれば、世界の半導体メーカーは21~22年に計29の新規量産ファブ(前工程工場)建設に着手する見通しで、装置投資額は1400億ドル(約15兆5000億円)に上るという。
中国と台湾で22年までにそれぞれ8、米州で6、欧州・中東で3、日本と韓国で各2のファブが着工される予定だ。ウエハー口径別で見れば、300ミリ対応が22で、残りは100。150、200ミリ対応だ。また、分野別ではファウンドリーが15、メモリー関連では4工場の建設が予定されている。これにより200ミリウエハー換算で月260万枚が増産されることになる。
ファウンドリー世界最大手の台湾TSMCは今年、過去最高となる300億ドルの設備投資を計画する。多くは高性能半導体を製造する5ナノメートルや3ナノメートルプロセス対応の最新鋭工場・設備に投じられるが、自動車用などで需要が拡大する28ナノメートルプロセスの生産能力も強化する。今年4月の取締役会議では、中国江蘇省南京市の「ファブ16」への約29億ドルの投資を決定。同工場の空きスペースに28ナノメートルラインを新設、22年下半期の量産を目指す。
IDM(垂直統合型デバイスメーカー)トップのインテルも2月にCEOに就任したパット・ゲルシンガー氏が打ち出した新製造戦略「IDM2.0」で、アリゾナ州への新工場建設などを打ち出した。
大手による新工場建設や設備増強で半導体製造装置市場も、今年過去最高の販売額が見込まれる。
製造装置、22年1000億ドル市場へ
SEMIが7月に発表した年央予測では2021年の世界販売額は前年比34%増の953億ドル。昨年12月の予想719億ドルを大幅上方修正した。22年はさらに5%増加し、1000億ドルを突破すると見ている。
ウエハー処理など前工程装置の21年販売額は前年比34%増の817億ドル、後工程の組み立て・パッケージング装置は同56%増の60億ドル、テスト装置は同26%増の76億ドルと、全ての分野で力強い伸びが見込まれる。
半導体、製造装置市場とも当面、活況が続くとの楽観的な見通しが続く一方で、現在の巨額投資が招く供給過剰を懸念する声も少なくない。
足元の半導体不足についてはTSMCの魏哲家CEOが今月15日の4~6月決算発表で、22年まで続くとの見通しを示した。
インテルのゲルシンガーCEOも「今年後半には半導体不足は底を打つが、需要に追い付くにはさらに1~2年かかる」と述べている。
だが現在の半導体不足は、供給を十分に確保できないとの懸念を強めた顧客企業が過剰に発注していることも一因とされる。コロナ禍でのペントアップ需要に支えられたコンシューマー機器の消費はいずれ沈静化し、汎用(はんよう)製品の不足は緩和される。
また、インテルやTSMC、サムスンなど大手のみならず、米グローバルファウンドリーズ、台湾の南亜科技なども新工場建設に着手しており、これらが予定通り23~24年に稼働を開始すれば一気に半導体の供給能力は増える。
さらに25年までに半導体自給率70%を目指す中国の動向も気になるところだ。