2022.02.16 住宅太陽光 需給調整の主体に進む社会実装、義務化の議論も

エネプラザを手掛ける住宅地。本格稼働に向け住民が入居を始めている

街区内のEV。平日は蓄電池として機能する街区内のEV。平日は蓄電池として機能する

各世帯にモニターを通じて電気料金を通知する各世帯にモニターを通じて電気料金を通知する

 カーボンニュートラル社会に向け、大きな役割を期待されるのが住宅に設置される太陽光発電だ。電力消費地が発電地へと変わり、需給調整の主体にもなるとして関心を集める。設置義務化を目指す議論が活発化する一方で、再生可能エネルギーを有効活用するため、電力を融通し合うコミュニティーも生まれている。

 さいたま市緑区の埼玉高速鉄道・浦和美園駅から歩いて数分。埼玉スタジアムにほど近い閑静な住宅街の一角に、再エネ系新電力、Looop(ループ、東京都台東区)が手掛ける「エネプラザ」の街区がある。

 約8400平方メートルに新築一戸建て51棟が並ぶ。昨年12月からこれまでに40世帯超が入居。4月までに全戸で入居を終え、システムを本格稼働させる。

 全戸の屋根上に取り付けられているのが出力約4.5kWの太陽光パネルだ。発電された電力はいったん街区の一区画に集め、各戸に配電する。街区内で電力を融通し合うことで、再エネ電力を最大限に使用するシステムを構築した。余った電力は大型蓄電池や、土日にシェアカーとして利用可能な電気自動車(EV)2台にためる。

 こうした仕組みで、街区内で発電した再エネで街区の年間電力需要の60%以上を賄う。同社によると、一般的には太陽光を導入した世帯で約30%、蓄電池を導入しても50%程度にとどまるという。エネプラザでは、別地域の住宅の電力データなどを基にシミュレーションを繰り返してシステムを検討してきた。特に電力需要が高まる冬場に課題は残るものの、「需要が少ない春や秋には100%近く賄える」(ループ)。

 エネプラザでは、発電量に、各世帯の需要を合わせる「仕掛け」が整備されているのも特徴だ。その2本柱の一つが、給湯器の自動制御。「使用時にお湯があれば、どのタイミングで沸かしてもいい」(ループ)ことに着目し、給湯器を制御して、太陽光発電が余るタイミングで沸き上げる。

 もう一つが、電力料金単価を変動させる「ダイナミックプライシング」の活用。需要量や発電量を事前に予測し、発電が余る時間帯に単価を安く設定する。前日に各世帯へ通知し、その時間帯での使用を促す。

 エネマネ企画課の荒井綾希子課長は「コミュニティー単位で電力需給バランスが取れ、系統への依存度を下げられる。作った電気をその場で地産地消する社会にできる」と説明する。

設置を課す動き、自治体先行

 住宅などの建物に再エネ設備の導入を課す議論が盛んになっている。国は見送る一方、独自に取り組む自治体も出てきた。

 政府は、国交、経産、環境の3省が合同で2021年に設置した有識者会議において、脱炭素社会に向けた住宅などの在り方について検討。21年8月の取りまとめでは、30年の姿として「新築戸建て住宅の6割で導入」を目標に掲げたが、設置義務化に関しては「将来における選択肢の一つ」と記すにとどまった。地域や立地条件で発電量などに差が生じる点や、個人にそのリスクを負わせてしまうことなどが課題として指摘されたという。

 国交省の担当者は「再エネそのものに大きな地域差があり、一律に押し付けるよりは自治体が進めるのを尊重する。国としては制度的な枠組みを準備していく」と話す。

 全国に先駆けて取り組んできたのが京都府と京都市だ。10年度ごろから足並みをそろえ、延べ床面積2000平方メートル以上の建築物に太陽光パネルなど再エネ設備の導入を義務付けている。商業ビルやマンションなどが主な対象となり、20年度までに京都府内で計約950件に設置された。

 さらに条例を改正し、22年4月からは対象を300平方メートル以上に拡大する。大規模な住宅なども含まれることになり、対象を広げる施策の強化になる。

小規模事業者に配慮

 一戸建て新築住宅への義務化を目指すのが東京都。小池百合子知事は21年9月に都議会で、義務化の検討方針を表明した。有識者会議で年度内まで制度設計の検討を続け、取りまとめる。その後、30年に排出する二酸化炭素(CO₂)などを半減させる都のスローガン「カーボンハーフ」に向けた施策として、条例制定を目指すスケジュールだ。

 都側が示した案では、延べ床面積2000平方メートル以下の新築か増築の建物が対象で、一戸建て住宅の大半が含まれる。ただ、義務付けるのは一戸建て住宅を年間200棟程度以上供給するハウスメーカーなどの事業者に限定した。大手約50社が該当し、地域の工務店などは除外される。小規模事業者に対し、「技術的な側面や営業面での負担を配慮した」(東京都)。

 都内で建てられる新築住宅は年間4万5000棟に達する。そのうち2万3000棟程度に再エネ設備を設置する想定だ。

 都の担当者は「都の試算では、これから新築される建物が、50年には都内で過半数を超える。そのため、できる限り環境性能の高い技術を活用していく」と話している。