2022.03.03 【コネクター技術特集】高周波・フルシールドタイプ基板対基板(FPC)用コネクター「WP16RSシリーズ」 日本航空電子工業
日本航空電子工業は、スマートフォンをはじめとした小型携帯機器向け5Gミリ波アンテナモジュール(AiP:Antenna in Package)の中継に最適な高周波・フルシールドタイプの基板対基板(基板対FPC)用コネクター「WP16RSシリーズ」を開発し、販売を開始した。
また、高周波・シールドタイプの基板対基板(FPC)用コネクターを「Wave-stack™」としてブランド化した。
開発背景・用途
5G(第5世代移動通信システム)の普及により、スマートフォンに代表される携帯機器のデータ通信は加速し、増大するトラフィックに対応するため、広い帯域幅で4Gの10倍となる高速通信を利用できるミリ波の活用が各国で進んでいる。ミリ波対応のスマートフォンにはAiPと呼ばれるミリ波用アンテナモジュールが搭載され、AiPとメイン基板間の信号伝送のために新たなRFコネクターが必要となる。
スマートフォンにおいては、ミリ波の指向性による課題を補うため、複数個のAiPがそれぞれ異なる方向に配置され、AiPとメイン基板間は高周波用FPCで中継される。
ミリ波帯通信で受信した信号はAiP内で中間周波数に変換され、AiPに実装されたコネクター(①)とコネクターを実装した低損失FPC、そしてメイン基板に実装されたコネクター(②)によりメイン基板回路へ伝送される。(図1)
この伝送路の特性を高いレベルで維持するため、高いシールド性能と高周波特性を備えた基板対FPC用コネクターが求められる。
このような背景の中、AiPとメイン基板間の接続用途に最適な高周波伝送対応・フルシールドタイプの基板対基板(FPC)用RFコネクター「WP16RSシリーズ」を開発した。(図2)
製品特長
スマートフォンにおけるAiP中継には多くの場合、低損失FPCが用いられることから、従来の基板対基板(FPC)用コネクターに求められる「高速伝送」、「小型・低背」、「堅牢(けんろう)性」に加え、「さらなる高周波品質」、放射ノイズを抑制するための「EMI対策」、AiPの駆動電源に必要な「電流伝送」が求められる。
WP16RSの開発においては、従来の基板対基板(FPC)コネクターであるWPシリーズの構造を大幅に改良し、RFコネクターとして業界トップクラスの性能を実現した。
特長1:フルシールド構造
従来のWPシリーズにおいても差動高速信号のEMI対策としてシールド付き製品はラインアップしていたが、AiP伝送においてはさらに高いレベルのシールド性能を必要とするため、コネクター端子部(はんだ付け部)を含む端子全体をシェルで覆った「フルシールド構造」を採用。
さらにレセプタクルに「絞りシェル」を採用することで堅牢性とシールド性能の両方を大幅に向上。(図3)
特長2:業界トップレベルの高周波信号品質
AiPはミリ波を中間周波数に変換するため、コネクターを含む伝送路には15G㎐以下程度の高周波特性が求められる。これは、従来のWPシリーズのコンタクト構造でも対応可能な範囲であるが、WP16RSでは将来的にミリ波帯まで伝送可能でかつ、より低損失のコネクターとするため、接触信頼性の高い2点接点構造でありながら高い周波帯域で安定した特性を実現できるRF専用端子を新たに開発し、ミリ波帯においても安定した高周波特性を実現。(図4、図5)
特長3:新コンセプト「Logical-contact™」による小型化と電源供給の両立
AiP中継にはRF以外の信号や駆動電源の供給が必要であり、WP16RSには2極のRF端子のほかに6極の多目的(信号)端子を設けている。
フルシールド構造とすることでトレードオフとなる外形寸法の増大を抑えるため、6極の多目的コンタクトには新たに開発した「Logical-contact™」を採用することで小型化と大電流の相反する課題を同時に解決し、従来比30%の小型化と3倍以上の許容電流値を実現。(図6)
特長4:フルシールド・フルアーマー構造による高い堅牢性
ラッパ型の絞りシェルを採用することで高いアライメント性と堅牢性を実現。
コネクターを嵌合(かんごう)する際にコネクター外周のシェルと内部アーマーによりアライメントされるため、オフセット嵌合された場合においても端子と樹脂部品の干渉によるダメージが生じにくい堅牢構造を採用。
AiP以外の用途事例
WP16RSは前述のAiP中継用途に加え、さまざまなRF信号の中継用途で活用効果が期待される。スマートフォンにおける6G㎐までのアンテナ中継には小型同軸コネクターと同軸線が用いられてきたが、無線の高機能化に伴うアンテナ数の増加により、複数RF信号を基板対基板(FPC)コネクターと低損失FPCに集約することで機器内部の省スペース化とアセンブリーコストの最適化などのメリットが見込まれる。
一般的な同軸コネクターをWP16RSに置き換えた場合、高周波特性の優位性だけではなく、基板占有面積を半分にすることができるため、高密度化が進む基板実装エリアの最適化に寄与する。(図7)
今後の展望
今後、ワイヤレス技術の進歩と普及はますます進み、高周波・シールドタイプの基板対基板(FPC)用コネクターが活躍する分野も増える。お客さまが高性能で高品質な高周波・シールドタイプの基板対基板(FPC)コネクターを分かりやすく選定できるように「Wave-stack™」としてブランド化した。
「Wave-stack™」は今後もシリーズ展開を進め、より広い用途・仕様でICT機器の内装接続品質をサポートし、Connected Societyを支える技術を提供する。〈日本航空電子工業㈱〉