2022.03.11 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説 <78>アフターコロナのDX&ローカル5Gを占う⑥
暗いニュースが続く中、北京冬季パラリンピックで村岡桃佳選手がアルペンスキー女子滑降と女子スーパー大回転の座位で金メダル、アルペンスキー女子スーパー複合で銀メダルを獲得した。
現在までに出場した競技全てでメダルを獲得する活躍ぶりだが、彼女は2019年から車いす陸上へも挑戦し、昨年の東京パラリンピックでも6位入賞した、いわゆる〝二刀流〟アスリートの一人だ。陸上で強化した筋力や体幹を、チェアスキーのターンにおける身体のバランスに生かせているらしい。確かに、彼女のターンは見えない糸のついた振り子のように正確で安定している。
さて、二刀流といえば宮本武蔵だろう。彼の著『五輪書』の中で「二刀を(同時に)用いて戦う技術そのものを追求しているのではなく、片手で戦う訓練をするために二刀を用いるのだ」と書かれている。その意味では〝5Gは二刀流〟ともいえるだろう。
5Gは二刀流
5Gの「超高速(eMBB)」と「超高信頼・低遅延(URLLC)」という二つの技術を二刀に例えるとするならば、超高速サービスと超高信頼・低遅延サービスの両方を一つの局面で同時に利用することはなく、どちらか片方を適材適所で利用してデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の戦線に挑むことになる。
例えば、生産現場においては「異常検知」を変革するニーズが高まっている。この要望に対しては、工場内を動き回る作業員やAGV(無人搬送車)に4Kカメラを付け、設備の状態を4K超高精細でリアルタイム撮影し、映像をディープラーニング(深層学習)で分析することで検知の精度を飛躍的に高められる。4K映像は大容量になるため、クラウド上のサーバーへ速やかに送るために5Gの超高速(eMBB)サービスを利用するとよい。
さらに、同じ生産工場で「検品」の変革ニーズも高まっている。検品は製造された製品が、良品か不良品かを選別する生産ラインの最後に位置する重要な作業だ。ここをより高度化するために、センサーで品質情報を収集し、深層学習によって分析する仕組みづくりが進んでいる。
不良品と判断されると、ベルトコンベヤーからロボットが不良品をつまみ出すもので、ラインの搬送速度をより高速にするにはロボットとの通信にローカル5Gの超高信頼・低遅延を利用すると良いはずだ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資料「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」の中でも、新しい社会像、社会的価値観として、テレワークとともに人工知能(AI)、ロボティクスが挙げられている。
今後、スマート工場やスマート農業、建設現場など、少子高齢化による人手不足の現場をはじめ、医療や介護、販売業などエッセンシャルワーカーの活躍の場で、AIとロボットの活用ニーズが高まるとしている。
スマート化の大波
アフターコロナになると、4K/8K、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)によるバーチャル化、AIとロボットによるスマート化の大きな波が押し寄せてくるだろう。
まさにこれから本格化するDXの時代では、あらゆる変革を強力に支援する5Gの超高速と超高信頼・低遅延の二刀流が活躍すると思う。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉