2020.02.04 SDGsの取り組みを動画ニュースで発信 雑誌「オルタナ」森摂・編集長が思いを語る

SDGsへの思いを語る森編集長

デジタル技術が強力な武器

 深刻化する地球環境問題などに対して国連が掲げたSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを、民間企業や自治体などが広くアピールするため、動画ニュースとして発信するサービス「SDGs90秒」を、PR会社「オズマピーアール」(東京都千代田区)が立ち上げた。

 環境や自然エネルギーといったSDGsとCSR(企業の社会的責任)を前面に掲げた季刊雑誌「オルタナ」の編集部が支援し、コンテンツの切り口やストーリーを取材、助言して制作する。

 動画ニュースサイト「VNNニュースチャンネル」などにアップして発信する。SDGsに特化した動画ニュース配信は、国内ではほとんど例がないという。自ら監修するというオルタナの森摂・編集長が、電波新聞社の取材に応じ、狙いや思いについて語った。


 ―今回の新たなサービスや、SDGsの現状について紹介してください。

 森編集長 SDGsは15年9月に、ニューヨークの国連総会で採択され、4年半が過ぎようとしています。日本でもSDGsは、かなり浸透してきました。全国的に自治体を中心に、そこに絡む企業などで関心が高まっています。

 SDGsに取り組むと、金銭的な利益になりそうだという雰囲気が出てきています。私は、当初はそれでもいいだろうと思っていますが、そこから、だんだん、本物とそうでないものに分かれていく気がします。

 そうした中で、まずSDGsの精神を共有して、企業、団体の良いところを引き出していくということが、私たちの仕事だと思っています。

 よく使われる言葉に「SDGsウォッシュ」があります。企業などが、SDGsに取り組んでいるふりをすることです。つまり、言っていることと、やっていることが違う。

 そういう組織は、大きなリスクになる可能性をはらんでいることを理解する必要があります。そうならないように、私たちが助言していきます。

 活字から動画の時代に移りつつある中、社内外に効果的に訴求するために動画が大変重要になってきました。タイトルにある90秒という数字は、象徴的な数ですが、手短な動画で分かりやすく、かつ正確な訴求性が高まるということです。

 さらに、雑誌「オルタナ」の記事でも、紹介された企業などの取り組みをサポートしていきます。ひょっとしたら、私のコラムでも引用させてもらうかもしれません。

 最近は変わってきましたが、昔ながらの企業には割と世の中に良いことをしても、あえて発信しないことが美しいという文化がありました。

 昔の商家などでは美徳でしょうが、明らかにこれは間違い。株式上場している企業や公的な組織では何らかの予算を使う以上、株主や従業員にもしっかり説明する必要があります。

 さらに、1980年生まれ以降のミレニアル世代は社会的課題に対する関心が高い。若い人の方が関心が高い。自分が勤める会社が社会的な取り組みをしているということは、従業員のモチベーションアップにもつながる。最近はESG投資で投資先の選定にも、こうした情報が使われています。

 ―どのような編集方針で臨むお考えですか。企業側には、どのように利用してほしいですか。


 森編集長 やはり、つまらない動画では、だめ。だから、メディアである以上、面白さや興味深さといった、何らかの要素を入れていきたい。

 企業はまず人が大事なので、社長自ら話すか現場の人が話してもらうなりして、人の生の肉声を伝えらえるような媒体になればいいと思っています。

 できるだけ、ありきたりは避けたい。新聞も雑誌も映像も同じ。社長がこういうところまで言及するのだという意外性であったり、誰も知らない取り組みを引き出したりしていきたい。

 一般の企業広報映像ですと、社長が、行儀よく座って話すといったパターンが多いですが、できるだけそういうことは排除していきたいと考えています。

 企業側には、何でも知ってほしいという網羅主義がある。大企業であればあるほど、そうなる。私は、むしろ絞り込みの方が大事だと思っています。

 誰しも、一つの企業に対して、覚えられることは限られている。一つの企業で一つのメッセージが伝わって浸透すれば成功でしょう。網羅的にすればするほど伝わらなくなる。一点突破主義で活用してもらいたい。

 ―AI(人工知能)やIoT、ブロックチェーンなどデジタル技術の進展が著しい中、SDGsとの関係を、どのように捉えていますか。


 森編集長 「アウトサイドイン」という言葉があります。社会課題を起点にしたビジネス創出といったことを意味しています。

 企業が、対顧客の向こうにある社会にまでベクトルを少し伸ばしていくと、社会の声が聞こえてくる。そこに新規ビジネスのチャンスがあるという考え方を、私たちはしています。

 AIやIoT、ビッグデータなどの活用は、アウトサイドインを実現するためのツールになると考えられています。今まで、できなかったことができるようになる。新たなニーズを、新しいビジネスアプローチで解決するための強力な武器がデジタル技術なのでしょう。

 デジタル技術と、SDGsとは全く矛盾しない。例えば、NECは画像認識が得意で、実際にアルゼンチンなど幾つかの国々で活用され、犯罪の被疑者の顔認識に貢献し逮捕率を向上させている。それは治安の向上につながり、犯罪抑制という社会課題の解決にもつながっているという面があるのです。

 ―以前、新聞記者をしていたというユニークなキャリアがありますね。


 森編集長 日本経済新聞の記者として、自動車や家電、流通などの業界を取材しました。ロサンゼルス支局長なども務めました。

 「オルタナ」は07年3月に創刊しましたが、オルタナティブという言葉から名付けています。直訳すると、「もう一つの選択肢」という意味ですが、より良い資本主義を目指すために、もう一つの選択肢を社会に提供しようという思いを込めました。

 業界誌というつもりはなく、一般誌として、アパレルから金融までいろいろなテーマの記事を掲載しています。

 かつて経済紙記者としては経営論が好きで、例えば「会社は誰のものか」という命題をいろいろな経営者に取材していました。

 あるアメリカの企業の創業者が「ビジネスは地球のものである」と答えました。「死んだ地球からはビジネスは生まれない」という言葉も教わりました。

 そうした経験が、今の取り組みのきっかけになっているかもしれません。今まさに、その言葉が示すことが問われているのだと思っています。