2020.03.25 【関西エレクトロニクス産業特集】スパコン〝富岳〟 関西の「知の拠点」で来春稼働

富岳の第1陣がR-CCSに納入された(19年12月3日)富岳の第1陣がR-CCSに納入された(19年12月3日)

富岳に搭載の富士通のCPU「A64FX」富岳に搭載の富士通のCPU「A64FX」

富岳のロゴ富岳のロゴ

「京」の100倍の計算能力 汎用性、超低消費電力が特徴

 かつて日本が誇ったスパコン「京(けい)」。この100倍の計算能力を持つ「エクサ」規模の次世代機「富岳(ふがく)」が来春、本格稼働する。現在、神戸市中央区の理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)に設置予定の全約400台のうち、ほぼ半数が納入済みだ。政府提唱の未来社会をつくるコンセプト「ソサエティ5.0」実現のために幅広い利用が期待されている。

 富岳は昨年8月末までR-CCSで稼働していた日本の最高峰マシン「京(けい)」の後継機種という位置付けだ。富士通ITプロダクツ(石川県かほく市)が製造している。

 京に続き富岳の開発の主体となっているR-CCSは日本のスパコン開発が進展するのに伴い、スパコン技術の総本山、さらには関西における「知の拠点」としての地位を確立していくことになる。

 公募で決まった「富岳」の名称は19年5月23日に発表され、正式ロゴは同年8月27日公開されている。「京」は同月30日に運用を停止。12年の運用開始以来、約7年の歴史に幕を閉じた。

 京を継承した富岳は、京(1京は1兆の1万倍=10の16乗)の100倍の性能。さらに京の100倍が1000ペタで、これが「エクサ」と呼ばれる性能。1エクサFLOPS(フロップス=1秒間の計算能力)という「計算速度の高さ」および多くの利用を可能にした「裾野の広さ」の2点が富岳命名の由来になっているという。

 富岳の開発・製造には国費約1100億円以上が投入される。

CPUは富士通

 富岳に搭載のCPU「A64FX」は富士通が開発した。幅広い応用に対応する汎用性、超低消費電力などを特徴としている。

 消費電力は京の約3倍の30-40MWと多いが、富岳のCPU数の多さや、処理性能を考慮すると消費電力は少なくて済んだとR-CCSは説明する。

 A64FXはソフトバンク子会社で英国企業ARM(アーム)の「Arm8.2-A SVE」を採用。

 広く使用されているアームのCPUを富岳用に大幅改良して、高い演算性能と高い省電力性能を持たせている。これによりビッグデータやAI(人工知能)など、ソサエティ5.0に必要とされるアプリケーションで高い能力が発揮される。

 8万2944個のCPUを搭載していた京に比べ、富岳は「A64FX」を15万個以上を搭載。京で使用された高速ネットワーク技術「Tofuインターコネクト」をさらに改善した「TofuインターコネクトD」により、CPU間を接続した超大規模システム。

 19年12月2日、富士通ITプロダクツで製造された第1陣が石川県の工場を出発、3日に神戸市のR-CCSに搬入された。

 富岳はこれまでに約200台以上がR-CCSに納入されたが、6月頃までに全量400台近くが設置される。

 稼働までにはシステムの調整が必要で、各研究機関が使用する共用開始は来春の見込み。

 富岳の特徴は、消費電力。昨年11月に米デンバーで開催されたスパコンの国際会議「SC19」で、富岳のプロトタイプが電力効率で最大の評価を受け、環境に優れたスパコンランキング「グリーン500」で1位に選ばれた。

 プロトタイプは消費電力1W当たりの性能16・876㌐FLOPS/Wを達成した。

 富岳の官民一体の開発プロジェクトは、経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の社会を目指すソサエティ5.0の実現に貢献することが本来の目的。

5分野の重点課題

 ①健康長寿社会の実現②防災・環境問題③エネルギー問題④産業競争力の強化⑤基礎科学の発展といった五つの分野と、重点課題としてこれらに付随する九つの分野の研究開発に向けて大学や国の研究機関が利用する。

 京のシミュレーション能力開発で培った日本の技術の継承や、〝コ・デザイン〟と呼ばれるハードとアプリケーションの協調設計を推進することで富岳が実現された。

 来年からビッグデータやAIでの展開で実力を発揮する。

 エクサスケールのスパコンは、昨年から今年にかけて米国で発表が相次いでいる。

 インテルとHPE傘下のクレイが米国初のエクサスケール機「オーロラ」を21年の納入をメドに米国エネルギー省から受注した。

 また、HPEはAMDと2エクサ レベル機を23年の完成を目標に共同開発することになっている。発注元は米国エネルギー省。

 中国でもエクサレベルのスパコン開発が盛んで、21年以降は米国、中国、日本を中心としたエクサレベルのスパコン開発競争が激化しそうだ。