2025.01.17 【照明業界 未来予想図】〈7〉「右へならえ」から「成解」へ 照明各社“その時”の選択
市場の局面が変わり、照明各社の経営戦略も変化(出所:富士経済)
青春期・朱夏期から白秋期へ
2010年代半ばから、既存光源のLED化で大勢が決着し、制御・ソリューション市場をはじめとする照明の「ソリューション」(コト提案)または「スペシャリティー」(先鋭化)への展開が幕開けした。照明企業の経営・事業戦略も、この時期から分岐するようになっていく。
照明産業を四季に例えると、LED光源という新技術によってもたらされた新たな時代の幕開けである春が「青春期」、急成長と過熱したブームをもたらした夏が「朱夏期」、需要が落ち着きを見せる中、仕込んでいた種を収穫する秋が「白秋期」といったところだろう。後にコロナ禍、半導体不足という想定外の厳しい冬(玄冬期)が訪れることになる。
青春期と朱夏期、白秋期の大きな違いは、目指すべき方向性が良い意味でも悪い意味でも曖昧化したことにある。春・夏は、明確に成長の指標、例えば個社の売り上げ拡大や照明メーカーからの出荷(フロー)ベースのLED化率の上昇などがあった。主要な照明メーカーはそれらを指標として「いかに速く、大きくすることで売り上げや収益、シェア、プレゼンスを高めることができるか」という指針があった。
これは新興企業にとってはより明確だった。「技術・生産面の市場開放(コモディティー化)で生じたビジネス機会をどれほど獲得するか」という明瞭・明解な方針となり、照明器具メーカーにとっても同様の傾向が見られた。一方、ランプメーカーは、ランプ交換を軸とした既存ビジネスをいかに軟着陸させるかという視点を持ちつつも、基本的にはLEDブームという大きな流れに乗り遅れないよう事業のかじを取っていた。
結果として、LED以前のランプを中心とする「寡占型」の市場が、照明器具による「差別化競争型」へと急速に移行した時期となった。企業戦略も、LED照明のラインアップ拡充や効率化といったスペック重視の傾向が強まったほか、価格や商流などを他社と比較したり、ベンチマークしたりする開発・製造・販売を志向する時期となった。一言でいうと「右へならえ」、「(時流や他社に)追いつけ追い越せ」で市場や事業が加速していた。
とはいえ、仕込んだ種を収穫する白秋期への移行はある日突然訪れるものでもなく、季節のように徐々に移ろうものだ。照明各社にとって、次の戦略・目指すべき方向性である「夢の照明」の中で、仕込むべき種であるソリューション/スペシャリティーは何にすべきかが問われていた。そもそも、「夢の照明」を追わないことも一つの有力な選択肢かもしれないという葛藤を覚える要因にもなっていた。
この時期、差別化競争型の市場環境に対し、技術革新と社会実装を伴うイノベーション志向の「技術・事業創出型」と合わせ、自社の得意領域・セグメントに対する「高度寡占型」への回帰も一部でみられる状況となった。「右へならえ」に対し、ここからは正しい解を選ぶのではなく、選んだ解を正しいものに成すという「成解」を志向するフェーズとなる。
「攻め」と「守り」と「共創」と
照明企業が選択・志向する戦略を類型化すると三つに分類できる。①売り上げやシェア拡大、新技術の開発、価値提案、顧客開拓を行う「攻め」②生産・販売のスリム化や最適化、売り上げよりも収益重視、緩やかな撤退戦も見越した「守り」③社内やグループ会社、外部企業との連携、場合によっては買収も行う「共創」――の3分類だ。青春期、朱夏期に当たる市場的に勢いのある時期は「攻め」、その後に訪れた白秋期の中盤から後半(17~19年)およびコロナ禍以降の玄冬期にかけては「守り」の展開が重視されるようになる。
ただし、白秋期以降は各社の置かれている状況やポジション、成長戦略なども分岐が進んだ。攻め、守り、共創それぞれで各社が何を選択し、どの程度の濃淡や強弱で実行するかによって戦略の方向性が分かれていった。
「サイズとイズム」「核と軸」の探索
企業の戦略と実行力を評価・分析する上で、「財務上の成果・多寡」に加えて、各社の経営判断と事業推進における「サイズとイズム」「核と軸」という視点を紹介したい。
まずは「サイズとイズム」。志や思想、リーダーシップを指すイズムが社風にあり、実践するキーマンがいるかは企業戦略を実行する上で重要だ。組織や部署にどの程度イズムが浸透しているかということを指すサイズも欠かせない。特に照明業界では中堅の器具専業メーカー4社(コイズミ照明、大光電機、遠藤照明、オーデリック)が、社長・会長のイズムと会社のサイズ、それに伴う組織風土や志向の差異・対比のバランスが良く、特徴的だった。
次に「核と軸」。自社の有形・無形資産がどういったもので、どこに強みがあるかなどコア・コンピタンスを指すのが核、目指す方向性や成長戦略の志向・選択を指すのが軸になる。現状の核は何か、今後どのように核を拡大させるのか。またその核をどの方向に、どの強度で何本の軸を伸ばすのか――。こうした視点を持つと、10年代から20年代前半にかけて、照明各社が置かれている状況の変化により拡大または縮小した核が、思惑通りにならず不発の軸になったり、反対に成解に至る軸となったりしたことが見えてくる。照明各社による多種多様な試行錯誤、特に白秋期における取り組みが、現在地にもつながっていると言えよう。
季節の変わり目となる照明業界の白秋期は、10年代後半から数年かけてみられた。その後、唐突な大寒波と厳しい冬を迎えることになる。世界的なパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症の拡大で、20年代初頭の日本の照明市場は大きな混乱に陥ることになる。
<執筆構成=富士経済・石井優>
【次回は1月第5週に掲載予定】