2020.09.18 【ASEAN特集】シンガポール〝サーキットブレーカー〟で影響最小限

アン・ウィー・セン事務局長

 シンガポールは研究開発から設計、製造、流通まで幅広いバリューチェーンを有し、アジアで最も確立された半導体エコシステムを誇る。

 4-6月の製造業生産高は前年同期に比べ0.7%減少した。これは新型コロナウイルス感染症拡大の影響を最小限にとどめるために、政府が「サーキットブレーカー」(緩やかな外出禁止令)を講じたためだ。しかしそうした中でも、エレクトロニクス産業の4-6月の生産高は前年同期比5.6%増を記録した。

 また半導体は1-6月前年同期比1.7%増加、6月単月ではクラウドサービスやデータセンター、5G向けがけん引して前年に比べ26%増加した。

 シンガポール半導体産業協会(SSIA)のアン・ウィー・セン事務局長は「半導体はほかの産業に比べるとパンデミックの影響が少なかった。上半期は力強い需要が継続し、今後もこの傾向は続くだろう」と語る。コロナ禍でも堅調な業績を支えたのは、半導体業界の優れた「レジリエンス=回復力」によると同局長は指摘する。

 コロナは渡航制限による労働力の不足、サプライチェーンの混乱、物流の停滞など様々な問題を引き起こした。そうした中で、SSIAが主導してきた「エレクトロニクス産業変革マップ(ITM)」が、企業が課題に対処する上で役立ったという。ITMは、政府主導の取り組みで生産性向上、イノベーション、人材開発の3点に焦点を当てた業界強化策だ。

 同国ではITMの下、エレクトロニクス産業では20年に生産高222億ドル、専門的スキルを有する人材2千人を雇用する目標を掲げている。しかし、コロナ禍での事業環境の変化に対応しニューノーマルを受け入れるに際して、多くの企業が戦略を再考しているところだ。

 最近実施した調査によると、複数の中小企業、多国籍企業がコロナによって短期的にも長期的にも戦略の見直しを迫られていると回答。一部ではこの2カ月で、数年分のデジタル変革がなされたという。

 同時に企業ではデジタル化やスマート製造、AR/VR実装などインダストリー4・0に向けた投資を加速していることが明らかになった。

 「デジタル化と現地労働者比率を高めることで、シンガポールの半導体業界は回復力を維持している。コロナ後は、古い規範に戻るのではなく新たな時代に入る。企業にとっては新時代に適応するため、組織を再構築しスタッフのスキルを向上させる良い機会になったと思う」とウィー・セン局長は述べた。