2021.05.20 【EMC・ノイズ対策技術特集】日本品質保証機構(JQA)車載機器専用EMC試験所を新設
現在、日本のISO認証件数ナンバーワンで知られる日本品質保証機構(JQA)は63年前、海外へ輸出する電子機械製品の安全性を確認する検査機関として設立された。アメリカやカナダの機関と提携することによって、メード・イン・ジャパンの輸出製品の性能を保証するという大役を果たし高度経済成長期を支えた。現在も、家電製品などの電気製品の安全性を示す「Sマーク」や産業標準化法に基づく「JISマーク認証」だけでなく、世界各国の法令や制度に基づく第三者認証機関として、マネジメントシステムや環境などの認証、検査、さらに計測機器の校正にも幅を広げ、お客さまや消費者の皆さまに「安全・安心」と「信頼」を提供している。
このたびJQAは、急速な電子化が進む自動車産業のお客さまに向けたサービスとして、自動車搭載電子機器類のEMC試験を新たに開始した。2019年11月に大阪府茨木市に車載機器専用の暗室を増設したのを皮切りに、2021年1月に東京都八王子市に2基、5月に新たに建設した中部試験センター(愛知県北名古屋市沖村五反22番地)内の新試験所に3基の車載機器専用の暗室を導入した。
今回紹介する中部試験センターの新試験所には、車載機器専用暗室3基だけでなく、さらに中部地区初となるリバブレーションチャンバーを導入するなど、最新設備をそろえた。これは今後のEV/HEV化をはじめとした自動車産業における急速な電子化や、ADASや自動運転に代表される高度な技術発展に伴う多様化するお客さま試験・評価ニーズに対応するものとなる。
法規認証、OEM規格などの幅広いEMC試験を提供
車載機器EMC試験において、他の製品のEMC試験と異なる点として、法規認証の評価とは別にOEM規格など法規認証よりも高いレベルが要求されるケースがある。これらにはそれぞれに対応した試験設備が必要となる。新試験所は、市場ニーズの高い試験を網羅することをコンセプトにしており、対応範囲が広いのが特徴といえる。例えばアンテナ照射法は、時代の状況に合わせて対応する周波数が高くなっており、既に6G㎐まで対応するケースが登場してきている。今回、JQAでも6G㎐まで対応可能なものを2基導入した。また、一般的に商用の車載機器EMC試験所が提供している試験サービスであるTEMセル、BCI、ストリップライン、磁界イミュニティ、アンテナ近接試験、リバブレーションチャンバーなども取りそろえており、GTEMやトリプレートなども準備して幅広く対応できるようにしている。
Eマーク取得支援サービス
EU区域内に輸出する自動車に搭載する部品や電子機器等においては、相互承認に参加している国の認可機関にてEマーク認証を得る必要がある。JQAではドイツ、イギリスでの認証取得に関する業務を実施している。
具体的には、ドイツの車両認可機関KBAに登録されたJQAの職員が、KBAのテクニカルサービスであるVDEの審査員に代わりEマーク認証の立ち会い試験を行う。Eマーク認証を取得する際は認証機関に対して各種資料、試験レポートを提出する必要があり、試験時の条件などについても認証機関が判断するものとなる。また、テクニカルサービスは認証を代行する役割を担っている。最終的には認可書は認証機関からの発行となるが、試験条件の判断や書類の確認などを代わりに担うことができる。JQAはドイツの試験所であるVDEとの連携により日本市場においてテクニカルサービスとしての役割を担うことが可能となる。これにより、試験所、認証機関(テクニカルサービス)の二つの機関との調整が不要となり、ある種のワンストップサービスを実現している。また、JQAはイギリスの車両認可機関VCAよりECE Regulation 10の試験所として認定されていることから、JQA試験結果をそのままEマークの適合証明データとしても利用することができる。
中部地区初、リバブレーションチャンバーの導入
新試験所において、特出したものはリバブレーションチャンバーの導入といえる。これは今後注目されるといわれている、周波数成分を持ったノイズを試験対象へ与えて耐性をみる試験などに利用される試験方法となる。
アンテナからノイズを照射して行う試験方法(IEC 61000-4-3、ISO 11452-2)などと目的は同じであるが、リバブレーションチャンバーはシールドで囲われた部屋に試験システムからアンテナを利用して照射される電波をシールド面に反射させる。この状態では試験対象位置に到達する電波の均一性はないが、リバブレーションチャンバー内にあるスターラーと呼ばれる金属の羽を持った円柱を回転させることにより、反射の状態を変化させる。そうすることにより試験対象位置においてスターラーのどこかの回転位置において均一的な電波を得られる。
目的は同じであるものの、アンテナ照射法とは電波のレベルの考え方も与え方も大きく異なる試験方法となる。また、もともとリバブレーションチャンバーは過去航空機や一部車載機器部品などでは利用されていたが、その他の製品の多くはアンテナ照射法による評価を利用していた。近年、上述のように自動運転やコネクテッド技術により電波ノイズは市場で氾濫した状態となることと絡め、アンテナ照射法よりもリバブレーションチャンバーの方が市場模擬に近いのではないかという点からも再注目されている。
またリバブレーションチャンバー法の特徴としては、多方向からの照射を行うものであり、高周波対応、アンプの低出力化が容易となる。
これはリバブレーションチャンバーが電波の共振作用を利用しているためであり高周波での強電界試験または、少ないアンプ出力にて強電界試験を行うことを容易にしている。アンテナ照射法と同様の目的であるものの、多方面からの照射であること、高周波に適しているなど、自動運転、コネクテッドなどと関連してリバブレーションチャンバーの利用は多くなるかもしれない。
現在、リバブレーションチャンバーは上述の通り国際規格のISO 11452-11、IEC 61000-4-21で規定されている。国際規格は多くの場合、出荷する国、Eマーク、車両メーカにより適用された場合に必要となる。
また、車載機器のEMC試験の場合は、方法を選べることが多い。現在はEマークなどの強制はないが、将来的に選択肢の一つとして規制に盛り込まれる可能性がある。
JQAとして、リバブレーションチャンバーを早期に導入する目的は大きく分けて二つある。今後評価が必要となる際にサービスを提供することはもちろん、さまざまな検証などを行い、リバブレーションチャンバーの特性などを広く市場へ提供することを目的としている。これらの情報は関係者にとって有益な情報となると考えられる。
また今回オープンした新試験所では、電気自動車/電動化についても対応している。現在、市場では電気自動車/電動化が進んでおり、試験規格ではUN/ECE Regulation10、CISPR25やISO 11452において、これまでバッテリー(12 or 24V)からの供給を意図していた製品の試験方法から、高圧のDC供給、AC供給を意図したECUにおいても試験が対応可能なように規格が改定され始めている。
これらの製品の変化、規格の変化は試験所としても対応が必要となるが、新試験所の設備は、そういった時代のニーズに応えるべくDC1000Vの電源を用意し、高圧対応の試験設備、冷却設備などを準備している。
また、これまで自動車ではDCで駆動するものがほとんどだったが、電気自動車/電動化の流れの中でAC入力の製品が登場してきている。試験の規格や要求などでいけば、AC入力に対してはIEC 61000-3、-4のような、これまで家電/情報機器/医療機器などのAC製品で利用されてきた規格が車載機器製品に対して要求されるケースがでてきた。
こちらについては、JQAは規格策定の委員会などに積極的に参加してきた経緯などもあり、市場の中においても規格への理解はトップクラスといえる。
JQAオートモーティブEMCラボラトリーネットワーク
JQAでは、国内各拠点の利点を最大限に活用したお客さまの利便性を高めるシームレスな試験ソリューションの提供を実現するために、東京、名古屋、大阪の3拠点の試験所が連携して「JQAオートモーティブEMCラボラトリーネットワーク」を構築している。
各拠点それぞれの特色を生かしたサービス体制を基盤に、最新設備でのEMC試験だけでなく、Eマーク認証取得に必要となる手続き、認証に必要な申請書類の作成、世界各国への認証申請、無線通信試験や電気安全試験、製品の評価のための各種環境試験なども可能となり、自動車産業向けトータルソリューションサービスを実現している。日本を代表する第三者認証機関であるJQAのEMC試験サービスをぜひご活用ください。
<日本品質保証機構(JQA)>