2021.07.16 【電子部品技術総合特集】ハイテクフォーカス・京セラ

太陽電池の長寿命化技術と寿命予測技術

 1.脱炭素社会 問われる太陽電池パネルの長期信頼性

 地球温暖化対策、2050年カーボンニュートラル脱炭素社会の実現に向け、将来の主力電源の一つとして位置付けられた再生可能エネルギーの中でも太陽光発電が担うべき役割と責任は大きい。主力電源化に向けては、さらなる発電コスト[円/kWh]の低減が必要だが、それには生涯発電量[kWh]の最大化が不可欠だ。鍵になるのが時間[h]に対応する出力保証年数の確保、すなわち長期信頼性である。太陽光発電を社会インフラとして長期にわたって健全に機能させるには、長期信頼性設計技術が極めて重要である。

 2.太陽電池パネルの劣化現象と寿命

 図1に、太陽電池パネルの構造と主な環境ストレス要因を示す。過酷な屋外環境で長期間にわたる発電性能の維持(長期信頼性)を求められる点が、他の電気製品、電子部品と大きく異なる。図2に、結晶シリコン太陽電池パネルの劣化推移を示す。劣化は、初期劣化→経年劣化→寿命劣化の順に推移する。寿命劣化は出力が急激に低下するモードであり、主原因の一つは、電極と半導体シリコンの電気的接続および機械強度的接着を担っている薄いガラス層の腐食劣化である。腐食劣化は、湿熱ストレスやUV光ストレスに起因して封止材(エチレン酢酸ビニル)中に生成する酢酸によって進行する。

 湿熱ストレスによる酢酸の生成は酸触媒加水分解反応で説明され、酢酸濃度は時間に対して指数関数的に増大する。これが太陽電池パネルの急激な出力低下に対応している。一方、UV光ストレスによる酢酸生成は封止材中の添加剤が関与することで生じ、パネル設置後数年間で酢酸濃度を急増させる。UV光起因で生じた酢酸も酸触媒加水分解反応に寄与するため、酢酸生成速度は湿熱ストレスのみの場合に対して大幅に増大する。すなわち、UV光は添加剤配合設計に依存して湿熱寿命を大幅に短縮し得る。

 実環境ではUV湿熱ストレス以外に、温度サイクルストレスや電位差ストレスなどが加わるので、実寿命はUV湿熱寿命よりも短くなる。例えば、パネル温度の日挙動に起因する温度サイクルストレスは、酢酸による腐食で接着強度が低下した電極に作用して電極剝がれを誘引し寿命劣化を早める。また、パネルフレーム(アース電位)とパネル中太陽電池セル間の電位差に起因する電位差ストレスは、腐食を含む電気化学反応を加速して寿命劣化を早める。

 3.長寿命化技術と寿命予測技術を開発

 図3に市場流通品の湿熱試験結果を示す。酢酸生成を抑制できる独自の改良封止材を開発、導入した弊社品では、市場で流通している輸入品に対して、顕著な湿熱耐性を発揮する。図4にUV湿熱寿命予測結果を示す。点線は80度以上の湿熱試験結果からアレニウスモデルを使って予測した目安寿命曲線である。UV湿熱寿命はこの目安寿命に対してUV補正係数と湿度補正係数を考慮して求められる。一方、70度以下の温度域にプロットされている点は、実環境設置品を回収して追加湿熱試験にかけて残寿命評価を行ったものである(寿命=設置年数+残寿命)。これら独立2方法の結果がほぼ整合していることは寿命予測の妥当性を示している。

 重要なことは、寿命は、設置地域(緯度)や設置形態(産業用/住宅用)、そしてパネル構造や使用部材に依存して変わることである。改良封止材を用いた場合は国内温度域で30年を十分に超えるUV湿熱寿命が予測されるのに対して、一般封止材の場合は、産業用では最大30年前後、産業用よりもパネル温度が高くなる住宅用では最大20年前後と予測される(2000年代中頃以前品はUVカットガラス仕様のためUV湿熱寿命はこれより長い)。

 加えて重要なことは、前述したように、UV湿熱寿命は実環境寿命よりも長く見積もられることである。UV湿熱試験に続いて温度サイクル試験や電位差試験を行う連続複合ストレス試験においても、予測寿命が実環境寿命よりも長く見積もられることに変わりはない。また、複合ストレス劣化現象には未解明の部分が少なくなく、予測には不確実性が避けられない。このため出力保証年数は予測寿命に対して十分な安全率を確保して決める必要がある(出力保証年数=予測寿命/安全率)。言い換えれば、安全率1.3程度で出力保証年数25年(30年)を設定するには、予測寿命は少なくとも33年(39年)以上必要となる。

 4.産業の健全な成長発展と安全安心な社会の実現に向けて

 今後の太陽光発電産業や市場の健全な成長発展に向けては投資家、発電事業者、一般ユーザーなどへの長期信頼性エビデンス情報の提供が重要になる。太陽電池パネルの長寿命化技術は電力単価の低減、ライフサイクルCO₂排出量の低減、将来の大量廃棄物の分散低減など、SDGsに代表される価値実現に貢献できる。一方、長期信頼性予測技術は、FIT後の自家消費市場での適正な電力価格形成、セカンダリー市場での発電所の資産価値評価、将来のリユース・リサイクル判断などに関わる。

 京セラは、太陽電池の研究開発に着手した1975年以来、一貫して長期信頼性(品質)を重視して技術開発を進めてきた。今後も太陽光発電事業を通じて安全安心な社会の実現に貢献していく。

 本記事に記載の一部はNEDO委託研究(2015~2019年度)に基づくものである。〈筆者=京セラ〉