2022.08.01 【インダクター特集】次世代ニーズ対応の新製品開発

150度対応自動車向け積層メタル系パワーインダクター

 インダクター市場は、電子機器の高機能・高性能化やコロナ禍からの経済回復などを背景に、順調な拡大が続いている。特に、自動運転化やEV化が進む自動車、5G(第5世代移動通信規格)化が進展するスマートフォン、産業機器などの分野が需要をけん引している。インダクターメーカー各社は、旺盛な需要に対応した生産能力増強を図るとともに、次世代ニーズに対応した新製品開発や製品ラインアップ拡充を推進する。

 インダクターは、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる電子部品。コンデンサー、抵抗器とともに三大受動部品(LCR部品)と呼ばれ、電子回路で重要な役割を担う。

 電子情報技術産業協会(JEITA)の電子部品グローバル出荷統計によると、インダクターは、世界的な景気拡大の波に乗り、2017年度に大きく出荷が増大。18年度も前半は堅調に推移したが、年度後半には米中通商摩擦激化に伴う中国経済減速や、設備投資需要低迷などが響き、主要電子機器、産業機器向けの需要が低調に推移した。19年度も米中摩擦長期化の影響などから、マイナス成長を余儀なくされた。

 20年度のインダクター市場は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴う消費活動の変化や企業活動の停滞により、当初は厳しい状況が予想された。しかし、6月ごろから中国自動車市場が立ち上がると、7月以降は米国自動車市場も回復。さらに、リモート需要や巣ごもり需要によるデジタル製品の需要増もインダクターを拡大させた。年度後半にはあらゆる産業分野でコロナ禍低迷からの回復が顕著となり、結果的に20年度のインダクターグローバル出荷金額は、前期比3.3%増の2659億円と前期を上回った。

 21年度のインダクター市場も、前年からの勢いが継続し、産業機器や自動車、ハイエンドスマホなどをけん引役に好調に推移した。加えて、サプライチェーンの混乱などを背景とした部品ユーザーのBCP在庫積み増しの動きも、インダクター受注をさらに押し上げ、21年度のインダクターグローバル出荷金額は、前期比16%増の3109億円と高い成長を示した。

 22年度のインダクター市場も、ここまで堅調な推移が続いている。直近のインダクター市場は、半導体不足の長期化や4、5月にかけての上海ロックダウンに伴う自動車減産、中国スマホの生産調整長期化、世界的な巣ごもり需要の一巡などから、受注ペースにはやや一服感も出ているが、各社ともに高水準の受注残を背景に、堅調な販売状況が継続している。

 今年後半に向けて、インフレの加速などを背景とした世界景気の減速懸念や、サプライチェーン混乱の継続、コロナ特需からの反動減など、さまざまなリスク要因も指摘されている。一方、半導体不足の解消に伴う電子機器や自動車生産正常化への期待も高い。各社は市場や客先の情報把握に努めつつ、積極的な事業を展開する。

分野別動向・ 車載用などで搭載点数が増加

 世界のインダクター市場は、今後も機器の高性能化や数量増を背景に、中期での安定的な成長が期待されている。分野別では、車載用インダクターは、電装化率の向上から搭載点数が増加。電源系のパワーインダクターをはじめ、無線通信系の高周波インダクターや信号系インダクターなどを含め、ECUの搭載点数増や高付加価値化により、さらに需要規模が拡大すると期待されている。

 車載ECU用は、セーフティー系からパワートレイン系まで高機能化への進展に伴い、搭載点数が増加する。従来は車室内での設置が多かったが、エンジンルームに設置される機電一体化などで、耐環境性能を重視した高信頼性のECU用製品も求められるようになっている。

 車載用インダクターの新製品開発では、自動車の信頼性試験であるAEC-Q100/200を満足した製品開発に力が注がれる。信頼性要求の強いECU用インダクターは、125度対応、さらに150度対応への高温度保証が要求されるようになっている。最近では、180度対応の製品も開発されている。自動車特有の耐振動・衝撃に対する信頼性確保も重視される。

 最近は自動運転の高度化に向け、ADASなどの安全系開発、採用が活発化している。ミリ波レーダーや車載センシングカメラなどによるデータ伝送の高速化、高精度化を推進するため、3225サイズのイーサネット用コモンモードフィルターが開発され、さらに広帯域での高いインピーダンスを実現した車載カメラ向けインターフェース用の信号伝送と、電源供給を1本のケーブルで実現する車載PoCインダクターも商品化されている。

 定格電圧40Vを実現し、車載12Vバッテリーから直接入力接続される電源回路での使用が可能とされるメタル系パワーインダクターも開発されている。

 スマートフォンでは、マルチバンド化、高機能化、バッテリー容量増大に伴い、内蔵バッテリーの占有面積が増えているため、限られたスペースの中で各機能の回路を形成することが必要。IoT端末や機能モジュールでは、さらに高密度化が進展し、超小型インダクターへのニーズが高まっている。

 各社は、高周波用、電源用、フィルター用などの各アプリケーションに最適な小型・薄型の新製品開発に全力を挙げている。

 高周波用インダクターは、RF回路における高性能化のための高Q化、高精度化と高密度実装化への対応のための小型、薄型化を両立されることが要求されており、0402サイズ品などにおける高Q化が進んでいる。

 フィルター用インダクターは、信号回路において、一般的にコンデンサーと組み合わせてLCフィルターとして使用される。特定の周波数の信号のみを通し、不要な周波数の信号をカットする目的で使用される。LCノイズフィルターとして、ノイズ対策用に需要が広がっている。

 スマホのノイズ対策は、高密度実装化の進展により、隣接する部品間が狭隘(きょうあい)化することで複雑化しており、0402サイズフェライトビーズなどの採用が進んでいる。

 また、信号伝達の高周波化、高速化により、高速差動ノイズ対策も重要となっている。その対策に、LCノイズフィルターが使用される。積層LCタイプに加え、薄膜LCタイプも開発されている。

 電源用インダクターは、小型・薄型・大電流対応化への開発が進展している。スマホでは、さまざまな半導体デバイスを駆動するための超小型・低背のDC-DCコンバーターが数多く搭載される。機能強化でコンバーターの搭載個数が増えることが、パワーインダクター需要を押し上げている。

 パワーインダクターは、フェライト巻線型、フェライト積層型のほか、メタル系パワーインダクターなどがある。メタル系は、巻線、積層、さらには薄膜の3層がある。

 メタル積層チップパワーインダクターは、1608サイズ品に対し、さらに小型化を追求した1005サイズの製品も開発されている。