2022.09.01 【防災の日特集】防災システム開発で社会の安全に貢献 産業機器分野でも活発化 センサーやLMガイドなど応用
地震対策の一つとして免震システムが注目され、体験イベントも増えている
自然災害の多い日本では防災システムの充実が国家的課題でもある。産業機器分野においても新たな技術で防災システムの開発に取り組み、社会の安全に寄与する動きが活発になっている。
◇センサー応用の土砂崩れ予知
今年の夏も全国各地で豪雨による河川の氾濫や土砂崩れなどの災害が数多く発生した。
約10年前から、デジタル技術を活用して、橋梁(きょうりょう)やトンネルなどインフラ系の崩壊や土石流、地滑り、崖崩れなどの災害を事前に予知する研究や実証実験が始まり、一部は実用化に入っている。
産業技術総合研究所(産総研)集積マイクロシステム研究センター、国土技術政策総合研究所などが取り組む「AIによる土石流検知センサーシステム」は、土石流が発生する可能性のある地域にMEMSセンサーを複数配置。センサーからのデータを無線で遠隔地に送って常時監視し、振動波形データをAIで解析して土石流の発生を検知する。
エレクトロニクス商社も自然災害の予知に注目。メーカーなどと連携し、システム開発を行っている。
◇LMガイド活用の免震システム
日本では地震が頻発している。阪神・淡路大震災(1995年1月17日)、東日本大震災(11年3月11日)の巨大地震は記憶に新しく、熊本地震(16年4月)も大きな被害をもたらした。近年では、南海トラフ地震や首都直下地震の緊迫度も高まっており、地震対策は急務の課題になっている。
建物の地震対策は、免震(建物と基礎の間に免震装置を設置し、建物に地震の揺れを直接伝えない)、制震(建物内部にダンパーなどの制震部材を組み込み、地震の揺れを吸収する)、耐震(地震に対して建築物が倒壊しない強度を持つ)に分類される。
直動案内機器メーカーは、建物やサーバー・半導体製造装置、病院の機器などの免震に、LMガイド(直動案内機器)を応用したシステムを提供している。
LMガイドはレール面の溝とボール(またはローラー)のかみ合わせによってスムーズな直線運動を行う機械要素部品で、半導体製造装置や工作機械など生産設備にも広く使われる。免震システムとして使うことで地盤と建物(または機器)を切り離し、建物に地震の揺れを直接伝えない。搭載荷重30~1200キログラム(THKの例)がそろう。
◇LPWA活用の防災システム
災害時の通信手段は「命綱」ともなる。商用の移動体通信を補完し、「必ずつながる通信手段」を確保するため、LPWA無線技術を活用した防災システムの開発が進む。
内閣府では首都直下地震を想定し、LPWA無線と衛星通信を組み合せて通信手段を確保する検証を既に実施している。
LPWAは、低消費電力で端末間の数キロメートル~数十キロメートルのダイレクト通信が可能な通信方式だ。
LPWAの物理層を利用すればデータ通信も容易で、スマホに機能を付加するというアイデアもある。エレクトロニクス商社や電気通信事業者などがLPWA無線を活用した無線システムの実用化に取り組んでいる。
◇蓄電設備
災害による停電に備えて家庭用蓄電システムが注目されている。蓄電システムは災害などによる停電時でも家電などを使用できるほか、スマホなどの充電も行える。
12年に家庭用蓄電システムを業界に先駆けて開発したニチコンは、トライブリッド蓄電システム「ESS-T3シリーズ」を展開。連系出力5/9kWの充放電能力を備え、全負荷200Vを標準搭載して、停電時でもエアコンやIH調理器などの200V機器を使用できる幅広い製品をそろえている。太陽光から充電したり、オプションでEVへの充電も可能。オール電化住宅でも停電時に家電が使える。