2023.07.27 【半導体/エレクトロニクス商社特集】半導体・電子部品市場、不足解消へ再編の可能性も 4つのシナリオを提起
盛況だったエレクトロニカチャイナの会場。電子部品の需要の高まりが示された
半導体・電子部品の市場動向をどうみるか。商社各社のトップインタビューの際に併せて取材した内容を総合すると、一部製品を除いて不足感は解消。今後については、在庫調整の早期終了を見込む楽観的なシナリオから、回復の長期化を想定する最も保守的なシナリオまでありそうだ。
コアスタッフの戸澤正紀社長は「この2年間で起こったパニック発注の影響で、各社で余剰在庫傾向になっている。ただ、一部製品の入荷遅れによる生産への影響も続いており、在庫消費が思うように進んでいない」と指摘する。
その中で、半導体製造装置などB2B製品では、今年の3~5月ごろが底だったともみられ、需要回復傾向の品も6月あたりから、見られるようになっているという。
一方で、顧客心理としては「将来の成長に向けた半導体投資は継続されているのが、従来のダウントレンド時期との違い」とみる。
〇複数シナリオ
それを踏まえて考えられるシナリオとして、四つが提起された。
①在庫調整の早期終了。需要も検討に進み、夏にも発注は大きく回復する。
②在庫調整の長期化。今年後半まで調整局面になり、その後、堅調な実需に支えられる。
③新設工場のキャパで回復長期化。グリーンフィールド投資などの効果・影響もあり、生産キャパがしばらく上がり、在庫がだぶつく。
④新設工場キャパと需要回復の長期化の二重苦。この場合、低調局面は当面解消されないことになる。
戸澤社長は「個人的にはむろん①を切望する」と期待した。
〇業界意識
この間の業界意識の変化について、多くの商社経営者は、値上げへの需要度が高まったことを挙げる。また、アナログとデジタルを併用するハイブリッドも、定着しているようだ。
また、複数の経営者が指摘したのは、メーカー、商社を含めた今後の再編の可能性。商権の移動も踏まえ、商社の選別、ふるい分けが進む可能性が指摘される。またメーカー側も、規模の拡大に向けて「この指とまれの再編の進む可能性がある」(大手首脳)とみられる。
半導体市場 新たな成長への調整期
半導体市場は新たな成長を前にした調整期にある。
世界の主要半導体メーカーで構成する世界半導体市場統計(WSTS)によると、2023年1~3月期の半導体世界売上高は前年同期比21.3%減とリーマン・ショック以来の下げ幅となった。
SEMI(国際半導体製造装置材料協会)の市場予測では、半導体市況の減速に伴い、同期間にシリコンウエハーの出荷面積は前年同期比で11.3%の減少。前四半期比でも9.0%減った。
メモリー単価下落の影響で大手メモリーメーカーは業績を大きく落としており、今月発表された韓国サムスン電子の23年4~6月期の売上高は前年同期比22.3%減少。同社は4月にメモリーチップの減産を発表したが、NAND、DRAMともに価格の下げ止まりには至っていない。
台湾と中国のファウンドリー(受託生産)各社の売上高とウエハー出荷枚数も22年10~12月期以降、落ち込みが目立つ。
台湾TSMCが20日に発表した23年4~6月期の売上高は前年同期比10%減。純利益は同23.3%減で、四半期ベースでは19年1~3月期以来、約4年ぶりの減収減益となった。
「リーマン・ショック以来のマイナス成長」となった足元の半導体市場。だが、次世代の半導体市場をけん引する成長ドライバーが存在感を強めている。
これまでパソコン(PC)に代わって市場を引っ張ってきたスマートフォンの成長は鈍化傾向が明確になってきた。今後はADAS(先進運転支援システム)や自動運転といった車載用、データセンターやサーバー、AI(人工知能)、5G、IoTなどが半導体市場の成長を持続させると期待されている。
英調査会社オムディアの南川明氏は「半導体市場は次の成長期に入った」と強調する。「過去20年間、PCやテレビ、スマホといった電子機器を個人が消費することで半導体市場は支えられてきた。今後はこの個人消費にカーボンゼロを目指すGX(グリーントランスフォーメーション)やデジタル化に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)など政府のインフラ投資が加わる」。南川氏はこれにより、従来に比べ一層高い成長率が実現される「非連続な成長が始まる」と述べる。
注目はチャットGPTに代表される生成AIの需要増加だ。
南川氏はデータセンターサーバーのうち、AIが使用する割合は27年に30%に達すると予測。従来、サーバーの使用量の多くを占めていた「検索」に比べ、AIは「プロセッシングパワー(処理能力)が10倍必要になる」という。「27年に30%」の実現には「CAGR(年間成長率)で25%規模の投資を続けないと実現しない」(南川氏)計算だ。チャットGPTなど生成AIの商用利用には多数のGPUが必要とされる。
カーボンニュートラルの推進に伴い、自動車の電動化も半導体市場を活性化させる主役の一つだ。EV(電気自動車)には内燃機関車に比べ2~8倍のディスクリートが必要とされる。消費電力を大幅に削減できるSiC(炭化ケイ素)などパワー半導体の搭載数の増加が見込まれる。
日本半導体製造装置協会(SEAJ)が今月発表した23年度の日本製半導体製造装置の販売高は、前年度比23%減の3兆201億円の予測だ。回復は24年度からで、過去最高だった22年度並みである同30%増の3兆9261億円を経て、25年度はさらに成長を加速させ、初の4兆円を超えるとの予想を示した。
経済安全保障の観点から実施される内外の半導体支援策も半導体各社の設備投資意欲を強く促し、半導体業界全体の中長期的な成長を下支えする構図だ。