2024.01.15 【新春インタビュー】アルプスアルパイン 泉英男代表取締役社長CEO兼技術担当

事業ポートフォリオの変革加速

 ―2023年6月23日付で社長に就任されました。23年はどのような年でしたか。

  振り返ると、22年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、それ以前からの部材不足状況に加えて原材料価格の高騰や燃料費高騰が進み、22年は厳しい年でした。23年の電子部品市場は、民生機器、特にパソコンやモバイル機器向けの需要が低調に推移し、当初は23年の秋口ごろから上昇に転じると予想していましたが、自動車向けは半導体調達難の緩和によるプラス効果があったものの、電子部品市場全体では低調な状況が続きました。

 地域別では、中国経済の回復が想定以上に遅れたことも誤算でした。また、中国の自動車市場では自動車メーカー間のシェア変動も進みました。

 23年度の当社の売り上げは、円安の恩恵もあり、当初の公表値に近いレベルを達成できると思いますが、中身をみると、当初考えたような実績には至っていないのが実情です。

 ―社長就任後の手応えはいかがですか。

  私自身はもともと事業担当と技術担当の両方に携わってきました。特に最近は、「事業ポートフォリオを変えていこう」ということを事業面と技術面の両方で推進していました。これらを加速させることが私に課せられた課題と捉えました。

 ただ、実際に社長に就任した後は、課題の多さについて、当初思っていた以上にいろいろな局面があり、それらを一つ一つクリアしていくにはかなりの労を要すると感じるようになりました。このため、ステークホルダー、特に会社の方向性を変えていく上では社員のエンゲージメントを高めて、共有化、共感を持ってもらえるようにすることが非常に重要だという認識をさらに強くしました。

 ―24年の業界をどう展望されますか。

中国経済の低迷長引く

  23年2、3月ごろの段階では、自動車市場における半導体調達不足が解消し、北米での消費の好調さが継続し、中国経済も徐々に回復していくことで、24年は需要が拡大すると予想していました。

 しかしながら、実際には中国経済の低迷は想定よりも長期化しそうな状況で、電子部品需要も弱含みとなっています。北米市場でも、UAW(全米自動車労働組合)のストライキを通じて賃金が大きく上昇しているため、それによる製品売価への転嫁が始まると、北米景気も減速するのではないかと考えています。

 中国市場に関しては、デジタルコンシューマー機器やモバイル機器は底打ちから回復に向かうことが期待されるため、ある程度ポジティブにみていますが、全体としては不確定要素が多く、特に中国経済低迷の長期化が気になるところです。

 ―民生機器、モバイル端末関連の部品需要は厳しい状況が続いています。

  パソコン関連は、コロナ禍での特需で一時は需要が相当増加しましたが、その後は在庫調整で低迷しました。現在は在庫レベル自体はコロナ前とほぼ同水準に戻っていると思いますが、部品需要全体では、まだ低い状態にとどまっています。

産業機器や環境機器へ軸足強化

 ―今後の経営戦略を教えてください。

  私に与えられた重要なミッションは「事業ポートフォリオ変革」のかじ取りです。景気環境に左右されてブレることなく、事業ポートフォリオ、製品の変革を推進します。そして、注力領域と非注力領域を明確化し、不採算製品は撤退や生産品目集約、生産拠点集約を進める計画です。

 その一方で、旧2社(旧アルプス電気、旧アルパイン)の統合を通じ、車載分野でいえば、デジタルキャビンソリューションを軸とした製品ポートフォリオへの変革に努めてきましたが、今年度に入り、これらの製品群の受注が26年度や27年度などの車種向けに大きく確定するようになってきました。電子部品事業でも、コンポーネント事業やセンサ・コミュニケーション事業で新製品の将来的な受注が大きく決まってきています。

 われわれが技術的・事業的な部分でかじを切っているところに、ようやく結果が追い付いてきたと感じます。来年度に向けても、さらに加速させたいと考えています。

 ―統合による効果が、製品群にも発揮されてきたということですか。

付加価値率を上げる

  そのように思います。統合後の数年間は、互いの製品群を合わせることで強い領域を広げていくという戦略が中心でしたが、現在は、電子部品でのコア技術を最大限活用して付加価値率を上げていくための製品を開発する、という方向が明確になってきています。われわれのありたい姿の輪郭が、おぼろげながら明確になってきたと感じてもらえるようになったのではないでしょうか。

 ―現中期経営計画は24年度が最終年度ですが、その先の戦略イメージは。

  現在、事業に関しては「事業ポートフォリオ変革」を重要テーマとして推進していますが、経営の部分でわれわれが求められるのは「企業価値の最大化」です。経営資源の最適配置が重要になるため、先ほどお話しした通り、注力領域と非注力領域を明確にし、非注力領域は速やかに事業のインパクトを最小化するための施策を講じます。

 アプリケーション別戦略は、コンシューマー市場では、スマートフォンでできることが増えた結果、新たなデジタル家電の創造が難しくなってきていると思います。このため、われわれのコア技術を活用し、産業機器や環境機器へと軸足を強化していかないといけないと考えています。

 事業別では特にセンサ・コミュニケーション事業の拡大を掲げています。

 当社は21年にIDECと合弁契約を締結し、23年4月に合弁会社IDEC ALPS Technologiesの第1弾製品を発表しましたが、合弁を通じ、産業機器市場で求められる特性などをいろいろ学ぶことができました。

 このため、社長就任後に専門組織の「事業変革推進室」を立ち上げました。24年は、こうした新市場に対してわれわれのコア技術を生かしていくための土台づくりをさらに推し進めていきたいと考えています。

 ―アライアンスへの取り組みにも積極的です。

  19年の米クアルコムとの提携を皮切りに、デジタルキャビンソリューションの実現に向けてさまざまな技術を有する企業とのアライアンスを進めてきました。最後のピースとして残っていた「サウンド領域」分野での開発を加速するため、23年7月に米DSP Conceptsとの協力体制を構築しました。

 静音性に優れる電気自動車(EV)は、従来のエンジン車ではエンジン音でかき消されていたロードノイズを拾ってしまうため、ロードノイズキャンセラーが複雑化しています。また、最近は車内オンラインミーティングが海外では一般化しているため、車室内でサウンドをコントロールする技術も非常に複雑化しています。

 そこで、デジタルキャビンソリューションの中で、音を全体的に統合して自動車メーカー向けに全体のプラットフォームを提供していくためには、プラットフォーマーとの提携が必要と考えました。この提携を通じ、デジタルキャビンソリューション実現への布陣が固まったと考えています。

 電子部品事業では、産業機器、環境機器へと軸足を強化する上で、技術的には対応できても販路などが課題になる場合もあります。FA関連ではIDECと提携しましたが、それ以外の産機分野もあるため、今後もいろいろな企業とパートナーシップを構築したいと考えています。

各市場での要求に応える体制に

 ―設備投資の取り組みを教えてください。

  現中計では3カ年で累計2000億円の成長投資を予定し、計画通り進捗(しんちょく)しています。今後も、電子部品事業のポートフォリオ変革に向け、われわれのコア技術が生かせる産業機器・環境関連市場への参入拡大に向けた投資を推進します。

 ―地政学リスクへの対応は。

  最近はサプライチェーンの問題は解消されてきていますが、地政学を考慮して、顧客からは地域完結型の体制づくりが求められています。特に重要な北米市場と中国市場では、そうした要求にしっかりと対応します。

 ただ、要求に対応するには開発拠点も地域ごとに必要となり、技術要求も異なるため、難しいかじ取りが求められます。具体的には、グローバル市場、中国市場、インド市場の3市場では製品開発の潮流が分岐しているため、各市場での要求に対応できるよう取り組みます。いずれにしても、成長性の高い中国やインドでは開発体制をさらに強化する必要があります。

 ―先頃、自社開発ICの外販開始を発表されました。

  これまでの20年間は自社で使用するICの内製化を行ってきました。当初は外販まではあまり考えていませんでしたが、「アルプスアルパインのICを活用したい」という要望が増えていたため、ICをアルプスアルパインブランドで外販することにしました。第1弾として、静電容量測定回路と32ビットCPUを内蔵し、当社従来品に比べ高感度・高ノイズ耐性の静電センシングが可能なICを開発し、国内外でのプロモーションを開始しました。今後もラインアップを増やしていきたいと考えています。

 当社は今後も、企業価値向上に向け、総合的に手を打つことで、成長を図っていきたいと思います。

(聞き手は電波新聞社代表取締役社長 平山勉)